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【戦国こぼれ話】大坂冬の陣開戦時、宣教師が豊臣方に味方した知られざる真相

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
宣教師は、なぜ豊臣方に味方し、大坂城に入城したのだろうか。(写真:アフロ)

 クリスマスも近くなった。クリスマスと言えば、キリスト教である。大坂冬の陣開戦時、宣教師は豊臣方に味方したが、実は知られざる真相があったという。詳細を探ることにしよう。

■宣教師が大坂城に入城した通説

 慶長19年(1614)10月、徳川家と豊臣家はついに戦闘に突入した。大坂冬の陣の開戦だ。

 通説によると、宣教師が豊臣方に味方し、大坂城に入城した理由については、大坂城に籠った信者たちを見捨てがたかったからだといわれてきた。

 この理由から、信仰のためなら命を投げ出す宣教師の姿を思い浮かべよう。

 また、彼らは秀頼の勝利に期待をかけており、勝てば再び布教が許されると考えていた。

 しかし、そうした考えは、修正を迫られることになった。

 以下、シュルツ氏が紹介したコーロス神父の残した記録によって、この点を考えてみよう。

■秀頼の敗北を期待?

 秀頼はキリシタンに好意的だったので、家康に勝利することが信者の多くの願いだった。

 しかし、冷静に状況を判断できる宣教師は、秀頼の敗北が神の摂理であったという。これはどういうことなのか。

 秀頼が勝利した場合、最初は宣教師に対して自由な布教活動を許すかもしれない。

 ところが、宣教師は時間の経過とともに、秀頼は現在よりも厳しくキリシタンを弾圧するだろうと予想した。

 これでは、秀頼を応援する意味がまったくない。なぜ宣教師は、そう考えたのだろうか。

■不審だった秀頼の行動

 秀吉の死後、秀頼は家康の強力な支配下のもとに事実上あったので、もはや自身の力だけで天下人になることは望めなかった。

 そこで、秀頼と淀殿は神と仏にすべてを委ね、秀吉が蓄えた金・銀を寺社に投じていた。

 同時に祈禱や念仏のために、寺社へさらに多額の金銭を与えていた。

 家康との戦いの勝利は単に秀頼だけでなく、神仏の名誉でもあり、神仏への崇敬は盛んになるといわれていた。

 宣教師らは、こうした秀頼の行動に大きな疑問を抱いたのである。

■キリスト教は全滅させられる?

 周知の通り、秀吉は神として崇められており、新しい戦の神が新八幡という名称で神殿が建てられようとしていた。

 こうした行為は、一神教のキリスト教の信仰とは相容れないところである。

 それゆえ、秀頼は宣教に秀吉のための礼拝を要求していたが、彼自身も宣教師が反対していることを知っていた。

 このような状況から、宣教師は秀頼が将来的にキリスト教を認めず、全滅させると考えたのである。

■本当は入城したくなかった宣教師

 宣教師らの大坂城入城に関しても、ロドリゲス神父が興味深い報告を残している。

 実のところ、宣教師は大坂の陣開戦とともに、町を去ろうとしたが、信者たちはこれを許さなかったというのである。

 信者たちは、宣教師が信徒のために命をかける勇気がなければ、今までの説教は何だったのかと迫った。

 そのような事情もあり、半ば強制的に宣教師は大坂城に入城させられた。

 そのうち外へ出る道路が閉鎖されてしまったので、宣教師は大坂城に留まったにすぎない。

 つまり、宣教師の意思とは関係なく、豊臣方に与せざるを得なかったというのが実情だったのだ。

■宣教師は秀頼に期待していなかった

 大坂城に閉じ込められたのは宣教師2人だったが、うち1人は秀頼に謁見した。

 宣教師は、教会を建てて信者を募ることを許されたという。それがせめてもの救いだった。

 つまり、大坂城に残った宣教師たちは、信者を思って入城したというよりも、信者から迫られて図らずも入城したことになろう。

 同時に、宣教師は秀頼にほとんど期待しておらず、秀頼の敗北と徳川政権の成立は神の摂理であると述べている。

 こうした事実が戦後になって報告されていることは、実に興味深い。

■まとめ

 宣教師の大阪城入城は美談で語られることが多いが、実際は違ったようである。

 彼らはむしろ徳川方を支持し、豊臣方の敗北を願っていたのである。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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