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【戦国こぼれ話】豊臣秀吉が伴天連追放令を発したのは、日本人奴隷の問題だった。その衝撃の真実

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
豊臣秀吉の時代、日本人奴隷は船に乗せられ、海外で売り飛ばされた。(写真:Paylessimages/イメージマート)

 世界的に難民の問題がクローズアップされている。悲しい現実である。かつてわが国でも、ポルトガル人商人が日本人奴隷を連行するという悲劇があった。それを知った豊臣秀吉は伴天連追放令を発したのであるが、その真相とは。

■日本人奴隷をめぐる問題

 天正15年(1587)4月、九州征伐を終えた秀吉は、意気揚々と博多(福岡市博多区)に凱旋した。

 そこで、秀吉が目にしたのは、ポルトガル商人の準備した船に乗せられる日本人奴隷の姿だった。この直後に発布されたのが、伴天連追放令である(この点は後述)。

 翌年6月、秀吉はイエズス会の日本支部準管区長を務めるガスパール・コエリョと口論になった(『イエズス会日本年報』)。次に、お互いの主張を挙げておこう。

◎秀吉「ポルトガル人が多数の日本人を買い、その国(ポルトガル)に連れて行くのは何故であるか」

◎コエリョ「ポルトガル人が日本人を買うのは、日本人が売るからであって、パードレ(司祭職にある者)たちはこれを大いに悲しみ、防止するためにできるだけ尽力したが、力が及ばなかった。各地の領主その他の異教徒がこれを売るので、殿下(秀吉)が望まれるならば、領主に日本人を売ることを止めるように命じ、これに背く者を重刑に処すならば容易に停止することができるであろう」

 秀吉が見たのは、日本人が奴隷としてポルトガル商人に買われ、次々と船に載せられる光景であった。驚いた秀吉は、早速コエリョを詰問したのである。

 コエリョが実際にどう思ったのかはわからないが、答えは苦し紛れのものであった。しかも原因を異教徒の日本人に求めており、売る者が悪いと主張しているのである。もちろんキリスト教を信仰する日本人は、奴隷売買に関与しなかったということになろう。

■日本人奴隷が売られる惨劇

 日本人奴隷が売られる様子を生々しく記しているのが、秀吉の右筆・大村由己の手になる『九州動座記』の次の記述である。

 日本人を数百人男女を問わず南蛮船が買い取り、手足に鎖を付けて船底に追い入れた。

 地獄の呵責よりもひどい。そのうえ牛馬を買い取り、生きながら皮を剥ぎ、坊主も弟子も手を使って食し、親子兄弟も無礼の儀、畜生道の様子が眼前に広がっている。

 近くの日本人はいずれもその様子を学び、子を売り親を売り妻女を売るとのことを耳にした。キリスト教を許容すれば、たちまち日本が外道の法になってしまうことを心配する。

 この前段において、秀吉はキリスト教が広まっていく様子や南蛮貿易の隆盛について感想を述べている。そして、人身売買の様相に危惧しているのである。

 秀吉は日本人が奴隷としてポルトガル商人により売買され、家畜のように扱われていることに激怒した。奴隷たちは、すっかり人間性すら失っていたのである。

 それどころか、近くの日本人はその様子から学んで、自分の子、親、妻女すらも売りに来るありさまである。

 秀吉は、その大きな要因をキリスト教の布教に求めた。キリスト教自体が悪いというよりも、付随したポルトガル商人や西洋の習慣ということになろう。イエズス会関係者は、その対応に苦慮したのである。

■伴天連追放令の発布

 日本人奴隷がポルトガル商人によって売買される惨劇を目の当たりにした秀吉は、九州征伐直後の天正15年(1587)6月19日に5ヵ条にわたる伴天連追放令を発した。そのポイントは、次のとおりである。

①日本は仏教国・神国なので、キリスト教の布教は不適当である。

②宣教師は人々にキリスト教への改宗を強要するので、仏法が破滅する。

宣教師は、20日以内に日本から退去すること。

 しかし、秀吉は貿易を禁止したわけではないので、極めて不徹底なものになった。その後も秀吉は日本人奴隷の売買禁止を求めるが、話は堂々巡りのようなありさまだったのである。

■まとめ

 戦国・織豊期において、戦争時に人々が捕らえられ、奴隷になったのは珍しくなかった。しかし、ポルトガルとの貿易が盛んになると、日本人奴隷も商品として船に乗せられ、海外で売買された。こういう悲しい現実があったことを知ってほしいものである。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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