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【戦国こぼれ話】国民に愛された明るくひょうきんな豊臣秀吉。その理由を真剣に考えてみよう。

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
豊臣秀吉は明るくひょうきんであるがゆえ、国民の多くから愛された。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 国民に愛された福原愛さんが離婚の危機だ。非常に残念である。戦国武将の中で、もっとも国民に愛されたのはひょうきんなキャラクターの豊臣秀吉である。秀吉が愛された理由を考えてみよう。

■明るく陽気だった豊臣秀吉

 豊臣秀吉が日本国民に愛され続けたのは、その明るく陽気といわれる性格にあった。近世に至って、秀吉の逸話の類が数多く紹介されたが、秀吉の明るく親しみやすい性格は近代以降も評価され続けたといってもよい。

 かつて明治大学などの教授を務めた笹川臨風は、秀吉の人気について次のように述べている(「豊太閤の生立」『歴史公論』5巻10号、1936年)。

由来日本人は明るい人種で、明るい所を好む特性がある。日本晴がしたやうだとは、日本人の理想で、国民気質の長所は此所にある。豊太閤は最も能く之を代表して居るから、日本英雄の最好模型である。

 日本人が元来明るい民族であるか否かは別として、一般的に明るい気質の人間が好まれるのは普遍的なことといえる。秀吉はその代表例であった。そして、それは英雄たる条件でもある。

■陰鬱だった日本の英雄

 秀吉以前の天下人の顔触れを見ると、いささか性格に陰鬱さを感じざるをえない。源頼朝は青年期に平治の乱で敗北を喫し、伊豆国の蛭ヶ小島に配流となった。以後、20年近く軟禁に近い生活を余儀なくされた。

 その影響があったのか、頼朝の性格は猜疑心が強く、弟・義経の勝手な行動を咎め、やがて死に追いやったことは有名である。室町幕府を開創した足利尊氏にも、弟の直義と対立して死に追いやったなど、暗いイメージが付きまとう。

 秀吉が仕えた織田信長に至っては、さらに陰湿な性格を持った印象が強い。亡くなった父・信秀の位牌に灰を投げつけた逸話に始まり、次々と配下の武将を粛清する行為は、我々に強烈なインパクトを与えた。好きな武将ではトップに躍り出るが、恐れられているのも事実だ。

 信長には、比叡山の焼き討ちや虐殺の類の話も非常に多い。一言で言うならば、残酷である。それゆえに同盟者や配下の武将の裏切り行為も多く、いささか付き合いにくい人間という感じがしてならない。

 源頼朝・足利尊氏・織田信長を代表として取り上げたが、大なり小なり権力者の手は血に染まっている。清廉潔白であることは、まずありえない。そのような大前提があるとするならば、秀吉はむしろ「良い部分」「光の部分」だけが、後世に語り継がれていったといってもよいであろう。

■吉川英治氏の貢献

 「明るい」あるいは「親しみやすい」秀吉像を増幅したのは、戦前・戦後を通じて国民的な人気作家であった、吉川英治氏なのかもしれない。

 同氏は昭和16年(1941)に刊行された自身の著作『新書太閤記』の中で、秀吉に人気がある理由を次のように指摘している(カッコ内は、筆者註)。

 かれ(=秀吉)ほど人間に対して寛大な人間はいなかった。人間性のゆたかな英雄はと問えば、だれもまず指を秀吉に屈するのも、かれのそういう一面が、以後の民衆の間に、ふかく親しまれて来たからではないだろうか。

 おそらく秀吉への親しみは、この後といえどかわるまい。理由はかんたんである。かれは典型的な日本人だったから。そして、同身感から好きになる。わけてかれの大凡(世間の一般の人、普通の人)や痴愚(おろかなこと)な点が身近に共鳴するのである。

 一言で言うならば、秀吉が特殊な能力を持った超人ではなく、ごく身近な普通の人間であるがゆえに、多くの人から愛されたということになろう。

 同氏は続けて「日本人の長所も短所も、身ひとつにそなえていた人。それが秀吉だともいえよう」という言葉で結んでいる。秀吉はそれまでの英雄とは違って、まさしく等身大の人間であり、一般庶民にとって身近な存在だったのである。

 実は、秀吉も他の戦国武将と同様に戦場を含め、多くの場面で数多くの残虐行為を行っているのであるが、実際にはあまり知られていないのではないだろうか。たしかに小説などでは、そうした場面はあまり取り上げられることがない。それは、秀吉を顕彰せんがための編纂物が流布した影響も強い。

 とはいえ、最近の大河ドラマなどでは、あえて秀吉の負の部分も描き出している。今後、秀吉の評価を見直す必要があろう。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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