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【「麒麟がくる」コラム】残り放映回数がわずかになった大河ドラマ「麒麟がくる」。今後の展開を予想する

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
天正10年(1582)6月の本能寺の変で、織田信長は明智光秀に急襲された。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

■ペースが遅い「麒麟がくる」

 大河ドラマ「麒麟がくる」は第37回を終えた時点でも、天正10年(1582)6月の本能寺の変までの道のりがまだ遠い。「ドラマは、最終回までに本能寺の変までたどり着くのだろうか?」と、心配する視聴者も多いことだろう。

 そこで、今回はここまでのストーリーの流れを考慮しながら、今後の展開について予想することにしよう。

■大河ドラマの主人公は良い人ばかり

 大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公・明智光秀の描かれ方のポイントは、「良い人」「正義の人」ということだ。これは、「麒麟がくる」だけに限らず、これまでの大河ドラマの主人公に一貫していることである。

 たとえば、大河ドラマ「平清盛」の主人公・平清盛は、戦いのない平和な時代を実現するため立ち上がったとして描かれている。大河ドラマ「軍師官兵衛」の主人公・黒田官兵衛も、思いやりのある優しい人柄で描かれている。やはり、主張は「戦(いくさ)のない世」だ。

 歴史上の人物を「良い人か」「悪い人か」で評価するのは疑問であるし、性格や人格を明確に記した史料はほとんどない。実際に「良い人か」「悪い人か」を客観的に判断するのは、極めて難しいだろう。

 ただ、ドラマの演出上(あるいは視聴率を上げるため)、主人公の武将を悪しざまに描くのは好ましくなく、いたしかたないように思う。善人のほうが万人受けするのはたしかだ。主人公ゆかりの地元への配慮もあるだろう。

 元亀2年(1571)9月の比叡山焼き討ちにおいて、光秀は逃げ惑う僧侶や女・子供を逃がそうとしていた。これが史実か否かは不明だが、光秀は少なくとも焼き討ちという暴挙には反対だった。「良い人」「正義の人」である。

 また、将軍・足利義昭が織田信長との対決に傾こうとすると、光秀はそれを阻止すべく進んで仲介役を買って出ている。やはり、「良い人」「正義の人」として描かれている。

 以上のとおり、ドラマの前提として、光秀は「良い人」「正義の人」だったということがポイントになる。

■織田信長の非道

 ところで、光秀が信長を本能寺で急襲したのは、信長の非道を許せなかったという説がある(時代考証者の小和田哲男先生の信長非道阻止説)。信長の非道とは、次の5つの事柄である。

(1)正親町天皇を譲位させて皇位簒奪(上皇の地位を狙う)を画策した。

(2)朝廷に地方暦の使用を強要しようとした。

(3)平姓の信長が征夷大将軍になろうとした。

(4)太政大臣の近衛前久に暴言を吐いた。

(5)快川紹喜を焼き殺した。

 結論を先取りすると、上に挙げた信長による5つの非道はすべて否定されている。否定された説をここで持ちだしたのは、ほかでもない。私は史実であるか否かは別にして、今後のストーリーは信長非道阻止説をベースにして描かれると睨んでいる。それはなぜか。

■光秀は正義の人だった!?

 光秀が信長に謀反を起こした理由はほかにもいろいろあるが、怨恨説のような私怨では「良い人」「正義の人」にはならない。ドラマの結末としても、ここまでの流れからしてもふさわしくないと思う。

 光秀を「良い人」「正義の人」とドラマの中で捉えるならば、やはり信長非道阻止説をベースにしなければならないだろう。それは、「良い人」「正義の人」の光秀が「悪人」の信長を討つという展開だ。

 同時に、これから描かれるであろう、信長と諸大名との抗争も大いに影響すると予想される。つまり、光秀が戦乱の世を終わらせ、平和な世にするという流れである。そのために信長を討つのだ。

■私の予想は

 以上の点を踏まえて、私の予想を列挙すると、次のようになろう。

(1)以後のドラマの中で、信長は諸大名との戦いに明け暮れるが、戦争で逃げ惑う庶民を見た光秀は、信長に対して許し難い感情を覚える。

(2)さらに信長は朝廷に対してもさまざまな非道を行い、光秀の怒りは頂点に達する。

 こうして最終回では、光秀がさまざまな非道を行った信長を討つべく挙兵し、本能寺の変で本懐を遂げる。そして、「良い人」「正義の人」の光秀は、朝廷のため、庶民のために立ち上がったが、羽柴(豊臣)秀吉に討たれ、志半ばで無念の最期を遂げるという結末である。

 最終的に「良い人」「正義の人」の光秀は、悲劇のヒーローとして描かれるのではないだろうか。これが私の今後のストーリーの予想、いや妄想である。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『大坂の陣全史 1598-1616』草思社、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房、『倭寇・人身売買・奴隷の戦国日本史』星海社新書、『関ヶ原合戦全史 1582-1615』草思社など多数。

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