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「次言ったら刺す」首にカッターを突きつけた女児:すすきの殺人事件関連報道から考える子供の暴力問題

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:楽しいはずの学校で・・・(写真:イメージマート)

■首にカッターを突きつけた小学校時代の容疑者女性

すすきの殺人事件。両親と共に、遺体遺棄損壊などの容疑で逮捕された女性。自宅からは被害者の切断された頭部が発見されている。

逮捕された段階で、マスコミには多くの情報が流れる。

報道によると、小学校で同級生だった男性が次のように語っている。

「「ちょっと高そうなドレスを着ていて(服を)ちゃかした時に、カッターを持ってきて教室で追いかけられて、馬乗りになられて首に突きつけられて『次言ったら刺すからな』って言われた。友達が止めてくれたので、けがはなかったんですけど」

「次言ったら刺すからな」首にカッターを突きつけられた…逮捕の娘の同級生が証言 すすきの頭部切断 日本テレビ Y!ニュース

得られているのは、この男性からの言葉だけで、おそらく裏どりはされていないだろう。だが、事実だとすれば小学生女児の行動としては、まれな行為だ。

この行為が事実だとしても、背景はわからない。男児による執拗ないじめが繰り返されていたのかもしれない。この時一回限りの軽口だとしても、もちろんこんなことは言うべきではない。

だがそうだとしても、なお女児の行動は強い指導が必要な行為だ。

■学校内における刃物トラブル

学校内での児童生徒同士のトラブルは、日常的だ。いじめ、口げんか、暴力沙汰。いじめは、深く相手の心身を傷つける行為で、指導が必要なのは言うまでもない。

対等なけんかも、当然止められる。暴力沙汰になれば、ケンカしている二人を引き離し、それぞれ別室で話をきくことになる。冷静さが戻れば、多くの子供は反省する。

まれに、刃物を持ち出すケースもある。彫刻刀などを相手に向ける行為だ。これは、素手でのケンカとは異なり、大きな問題になる。大ケガの可能性があるのだから、当然だろう。

子供が殴り合いのケンカでケガをしても全国ニュースにはならないだろうが、刃物でケガをすればニュースになりかねない。それだけの大ごとだ。

殴り合いのケンカも、いけないことだ。学校では、暴力を振るってしまった子供の怒りに共感をしめしつつも、暴力はだめだと指導する。

刃物の場合は、さらに問題が大きい。カッとなったからといって刃物を出すような行為が、くせになってしまったら、習慣化してしまったら、大変なことだ。

学校内なら説教で終わるかもしれないが、社会の中で人に刃物など向けたら警察に通報されるだろう。

争いの中で、刃物を人に向けては絶対にいけない。今回報道されているような、刃物を首につきつけるようなことは論外だ。

怒りっぽい子に対して、その怒りを否定するだけでは効果はない、むしろ逆効果だ。怒りをコントロールする方法を教えよう(怒りんぼの子供のために:子供向きアンガーコントロール:Y!ニュース有料)

しかしさらに、アンガーコントロールの問題だけではないケースもある。

■指導のあり方:将来の悲劇を防ぐために

いわゆる非行少年の中には、ナイフやカッターナイフなどを持ち歩く人もいる。人を脅すためのナイフの使い方などを練習する人もいる。もちろんそれも良いことでなく、根気強い指導が必要だろう。

だが、今回報道されたような、普通の小学生女児がカッターナイフを首につきつけるような行為はどうだろう。一見普通に見える女児の行為だからこそ、非行少年の刃物問題よりも、アンガーコントロールの問題よりも、なお一層深く慎重な指導が必要な事例と思われる。

今回の小学校時代の出来事と、すすきの殺人事件との関連は全く不明だ。だが、小学校での出来事が事実だとするなら、その時にどんな指導が行われたかは気にかかる。

おそらく。とても叱られたことだろう。しかし女児の行為は、ただ強く叱って済む話ではない。

彼女はなぜこんなことをしたのだろうか。もちろん、怒りや悲しみはあったことだろう。一方的に責めれば良いわけではない。しかし、何があったとしても、通常では考えられない反応だ。

学校でも家庭でも、このような怒りの爆発、普段の生活とはかけ離れた、極端な加害行為。いったい、彼女の心や環境に何があったのだろうか。

親も先生も、トラブルは避けたいと思うし、事件は防ぎたいと考え、我が子や児童生徒の幸せを願っている。大ごとにはしたくないと思うのも、無理はない。しかし、時には大ごとにすべきこともある。

それは、大人の世界のように刑罰を与えるための責任追及とはことなる。本人の今後のことを考えた教育的な指導だ。そのためには、教育、心理、福祉、精神医学、様々なアプローチが必要かもしれない。

子供時代にトラブルを起こす人が、大人になってみんな犯罪者になるわけではない。そんな見方をしてはいけない。一方、後に大事件を起こす人が、小中学校時代にトラブルを起こしていたことも多い。

もしもその時に、叱責と説教で終わるのではなく、さらに深い支援や教育、治療が行われていれば、後の大事件は起きなかったかもしれないと思われるケースが、いくつもある。

表面上の謝罪や、反省文を書かせるだけでは解決できないことも多い。本人が何を悩み、どんな問題を抱えているのか。今回のこの行動だけでなく、さらに大きな問題が秘められているのではないか。

きちんと叱れば終わる問題と、叱っただけでは終わらない問題がある。

周囲の大人たちは、そんな想像力をもって、被害者を守ることに加えて、加害者を守るためにも、本気のアプローチが必要だろう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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