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マスメディアは何を伝えるべきか:新型コロナの恐怖と希望を求める私たち:真逆編集に陥らずに

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:マスメディアは諸刃の剣(写真:アフロ)

人は真実を求めるのではなく、面白い話題を求めるのか? メディアは何を伝え、私たちはどう受け止めるべきなだろう。

■人々が求める情報:感染症拡大の中で広がるデマ情報、誤情報

災害クラスの出来事が起こるとき、人々は情報を強く求めます。情報が正しくても正しくなくても、知りたい情報があります。

感染症拡大期に広がりやすいデマ情報や誤情報に関する研究によると、デマの種類は2種類です。

一つは、恐怖デマ。

もう一つが、希望デマです。

こんな恐ろしいことが起きている、もっと恐ろしいことが起きるという情報は、もし本当のことなら大変です。ぜひ手に入れなければなりません。

そんな人々の気持ちを背景に、病気に関する恐怖を高めるデマも広がります。あるいはトイレットペーパーがなくなるといったデマが広がります。

もう一つが、希望デマです。人々は、病気にかからない方法を探します。お湯を飲むとコロナが防げるといったデマ情報も広がりやすいものです。

日頃から誤った情報は混乱を生みますが、感染症拡大期はなおさら要注意です。

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デマや誤情報は、もちろん困ります。けれど、マスコミがわざとデマを流すことはありませんが、人々が恐怖と希望を求めるなら、マスコミもそれに応えようとは思うのかもしれません。

■マスコミが流し続けた新型コロナ情報

テレビは、ずっと新型コロナ情報を流し続けました。コロナの恐怖情報を流し続けました。恐怖感をあおっていると批判されることもあります。

新型コロナはこんなに怖いという情報、その雰囲気を伝えます。放送局として嘘は伝えられませんが、怖いことを語ってくれるコメンテーターが登場します。画面に出る文字の形も、怖そうな形です。おどろおどろしいBGMが流れます。

番組を見れば見るほど、新型コロナが怖くなります。怖くなりますが、人々はその恐怖情報をさらに求めます。番組も恐怖情報を流し続けます。

もう一つマスコミが取り上げるのが、希望情報です。新しい薬に関する情報は、大きく報道されます。まだ初期段階の研究でも、詳細に伝えられもしました。

人々はデマであれ、正しい情報であれ、メディアによって加工された情報であれ、恐怖と希望を求めているのかもしれません。

■マスコミが果たすべき役割

災害心理学の研究によると、地震などの災害発生時にマスコミが果たすべき役割は、次の5つです。

1.災害発生直後の生活情報

2.被害増大を防ぐ情報

3.被害の大きさ、悲惨さの報道

4.被災者へのインタビュー

5.明るく前向きな情報

これは、感染症拡大期も同じでしょう。

1.症状があるときは、地元のセンターに電話してくださいと言った生活情報。

2.距離を取りましょうといった感染拡大を防ぐ情報

3.感染症の広がりや、収入が減って困っている人などに関する被害情報。このような情報で、社会が動きます。

4.実際に病気になった人へのインタビュー記事のおかげで、私たちは病気について実感が持てます。

5.暗い話ばかりでは気が滅入ります。新薬の話題や、頑張っている人の話題も必要です。

報道の役割は、人々が正しく怖がり、勇気と希望を失わず、適切な予防行動と復興のための行動が取れるようにすることでしょう。1〜5のタイミングと量のバランスが大切です。

■マスコミが道を間違えるとき

◯通常より異常を求めるメディア

人々は、恐怖と希望を求めます。気をつけなければ、プロのマスコミ人さえ、行き過ぎた恐怖と希望情報を発信してしまうことがあります。

ある街で大地震が起こる。まだ避難所には大勢の人がいる。その避難所は、たびたびマスコミに登場するのですが、実はその隣のスーパーはすでに通常の営業を始めているのに、それはほとんど報道されないこともあります。これでは、私たちは被災地の現状を見誤ります。

マスコミは、通常の状態よりも、異常な状態を求めます。パニックや、異常事態を探します。

商品が普通に棚に並んでいるのはニュースにならず、空っぽの店はニュースになります。大きな段ボールいっぱいのマスクが、あっと言う間に売れ切れる動画などは、何度もテレビで放送されました。

しかし、このような報道が、買い占め買いだめ買い急ぎ行動を増加させます。

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ただし、マスコミも社会も学びます。トイレットペーパー不足は、比較的速やかに解決されました。

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○「はい」より「いいえ」を求めるメディア

マスコミは、「はい」より「いいえ」を求めます。政府や現場のスタッフが行っていることが、「そのままで良い」という情報よりも、「それではダメだ」という情報の方が価値が上がります。

もちろん、政府に対しても、行政に対しても、批判精神は不可欠です。しかし緊急時においては、まず行政や専門家と私たちとの間の適切な(正しく怖がるための)「リスクコミュニケーション」が大切です。事細かに批判すれば良いわけではありません。

現場はいつも混乱しています。プロフェッショナルの人々も、こんな事態は始めただったりします。しかも戦う相手は、新型ウイルス。専門家だって詳細はわからないまま対応せざるをえません。

テレビの専門家ではないコメンテーターが大声で語る非難や、医療の素人の感情的な意見が、視聴者をミスリードさせ、現場をさらに混乱させることはなかったでしょうか。

医療の専門家の発言も同様です。その発言の正誤はともかく、仮に正しくても、今すぐ現場に役立つ情報発信になっていたでしょうか。

○取材対象者からのクレーム

また、取材対象者からのクレームも起きました。

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テレビは語ったことしか放送しませんが、編集次第で、正反対の意見を述べているようにすることもできます。

ツイッター上には、「コロナ禍のマスコミの偏向報道で父の店が潰れました」という投稿もありました。

この事例では、インタビューの一部だけが使われ、映像も恣意的に使われたと訴えています。このツイートの真偽は不明ですが、取材内容の編集に関する苦情は、大震災の時も、今回のコロナ騒動の時も、実際に聞く話です。

■メディアリテラシーとマスコミ活用法

1時間取材されたことが10秒の放送、3行のコメントになることは普通です。誘導的な質問も少なくありません。映像を放送前に見せてもらうこともありません。

「真逆編集」で正反対の意見に見せてしまうのはひどいですが、誘導されて曖昧でも肯定的な返事をすれば、そこが使われことはあります。センセーショナルな物言いも使われやすいでしょう。取材されてひどい目にあったという専門家や一般の人の話も聞くことです。

メディア側の自制心も必要ですが、私たちのメディアリテラシーも必要です。「休日の楽しい遊園地」を報道しようとするなら、ケンカしている家族を取材しないのは、当然でしょう。でも、全ての家族が仲良しというわけでもありません。

マスコミに強い不信感を持つ人もいます。しかし、マスコミへの偏見も間違っています。優秀な記者、インタビュアーと話すと、自分の意見が整理され、自分の思いが伝えられた感覚があり、さらに実に上手くまとめてくれたと感心することもあります。

取材してもらって癒されたと語る被害者もいます。取材対象に与える心理的な良い効果はあるのです。また番組や紙面で紹介されなくても、その話がマスコミ人の考えに影響を与えることもあるでしょう。

被害者、被災地、苦労している人たちの中には、取材に来てくれてメディアで紹介されることを切望している人たちもいます。

マスコミは様々な手法で取材します。すれ違いも起こります。けれども、私たちがメディアとの相互信頼関係を作り、共に良い社会にしていくことは、きっとできるはずです(コメントはゆがめられるのか--マスコミに取材される実体験を通して--メディアとの付き合い方:Y!ニュース個人有料)。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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