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マスクパニック!:買い占め買いだめを防ぐための心理学:新型ウイルス対策として

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
各地でマスクの増産は続いているが:新型ウイルス肺炎が世界に拡大 各国で警戒(写真:ロイター/アフロ)

■店からマスクが消えた!?

あるドラッグストアで、聞こえてきた家族の会話です。

「どうしよう。マスクがあと『1ヶ月分』しかない」。

1ヶ月分の備蓄があれば、少なくとも焦る必要はないかと思うのですが、その言葉からは戸惑いの感情を感じました(新型ウイルス肺炎に過剰反応しているのかもしれません。あるいは、どうしてもマスクが必要な家族がいて困っているのかもしれません)。

ただ、その家族はドラッグストアの店舗内では、誰もマスクをしていませんでした。

今すぐマスクが必要なわけでもないのに、マスクを買い占め、買いだめする人々がいて、今すぐマスクを必要としている人々が困っています。

今、「マスク」でネット検索をかけると、それに続くワードとして「売っている店」「作り方」などが表れます。

厚労省もマスクの増産を要請し、買い占め防止も求めています。

WHOも、新型ウイルスに関連して「医療用マスクを買い占めないで」と世界の人々に呼びかけています。

■異常事態の買い占め、買いだめ行動

古くは、1973年のオイルショックのときに発生した「トイレットペーパー騒動」です。日本中で品不足が起きました。

このとき実は、トイレットペーパーは不足していませんでした。

石油輸入の不安から、「紙が不足するのではないか」といううわさ(流言飛語、デマ)が流れます。ある店で、トイレットペーパーの安売りをして行列ができて、あっと言う間に売り切れます。それをマスコミが報道します。

こうして、日本中で、トイレットペーパーの買い占め、買いだめ行動が置き、在庫切れ、品不足となってしまいました。

この時は、他の紙製品や、洗剤の不足も起きてしまいました。

このトイレットペーパー騒動が発生した後、政府は冷静な行動を呼びかけましたが、あまり効果はありませんでした。

そこで、政府は国民生活安定緊急措置法の指定品目にトイレットペーパーを追加し、店頭に大量のトイレットペーパーを並べ、国民を安心させました。こうして、騒動は収まりました。

東日本大震災のときには、東京で店からペットボトルの水が消えました。一部の人の大量買い占め、買いだめが起きたためです。その後も、大きな災害が発生すると、コンビニから電池が消えたりもしています。

今回のマスク不足は、当初は東京の話題でしたが、現在は日本中で起きています。さらに日本に多くのマスクを輸出している中国で極端なマスク不足も起きています。

■緊急時の買い占め・買いだめ・品不足・売り切れはなぜ起きるのか

研究によれば、

初期の買い占め買いだめ行動→品薄→品薄や買い占め買いだめの報道→一般の人々の買い占め買いだめ行動→売り切れ在庫切れ、と広がっていきます。

初期の買い占め買いだめ行動をとる人々の動機は、不安です。現代においては、ネットに飛び交う様々な情報もあるでしょう。

東日本大震災の時、ペットボトルの水を買い占め買いだめした人たちも、「情報強者」でしょう。素早く情報を知れ、自家用車を使っていくつもの店に次々といき、ペットボトルの水をケースで買いあさりました。

まだ、被災地では水道の水が出ず、風呂の残り湯でご飯を炊いているなどのニュースが流れていた時期です。そして、店からペットボトルの水が消えた結果、本当に必要としている家族が困ることになってしまいました。

緊急時の国民の買い占め買いだめ行動には、マスコミも一役買っています。マスコミは、多くの場合、パニックが好きです。パニック的なことが起こると、新聞記者やテレビスタッフは、上司から「街に行ってパニックを探してこい!」とハッパをかけられます(と、マスコミの方から聞きました)。

今回も店からマスクがなくなって、空になった棚や、大量のマスクがあっという間に売り切れる様子が、何度も報道されました。

一部の人の買い占め買いだめ行動が、マスコミによって広く知られるようになります。そうなると、一般の人々にも不安が広がります。店に行けば、いつもより並んでいる量が少ないようです。ここで、新たな買い占め買いだめ行動が起きれば、店では売り切れです。

いつもなら商品が溢れるほど並んでいる店で、売り切れ。これは、異常事態発生と感じます。この状況で、自分と家族を守らなければなりません。こうして、みんなが大量買いに走ります。

当初は、一部の人の過剰反応だったのに、後半では生活防衛としての買い物になり、マスク不足が広がります。店舗に商品が並ぶとすぐに売り切れる。後から来た人は、空の棚と「売り切れ」「入荷時期未定」の張り紙。不安はさらに高まります。

関係者によると、消費者の「異常購買行動」が直らない限り、品不足状態がいつ解消するか分からないと言うことです。

■社会的ジレンマ、個人のリスクと社会のリスク

新型ウイルスの報道が続く中、マスクを買う行動は正しい行動でしょう。ある程度の買い置きも良いでしょう。しかし、みんながいつもの10倍のマスクを買ってしまえば、売り切れ続出です。

その個人、その家族としては、正しい行動だとしても、みんなが同じことをしてしまうと、社会全体ではとても困ったことが起きる。これが、「社会的ジレンマ」です。

マスクが家にたくさんあれば、個人のリスクは下がるでしょう。でも、その結果、社会全体のリスクが上がってしまうのです。そうなれば、結局一人ひとりにとっても、危険は高まってしまします。

SF映画では、品不足の中、奪い合いや暴動が発生し、さらに社会は混乱していく姿が描かれます。

パニック発生時には、自分だけが助かろうと思うことで、パニックが広がり、みんなが危険にさらされます。

■買い占め、買いだめを防ぐために

では、どうすれば緊急時の異常な購入行動、買い占め、買いだめを防ぐことができるでしょうか。

◯初期の買いあさりを防ぐ

まず、大切なのは、初期の買い占め買いだめを防ぐことです。

あなたが不安が高い方なら、情報強者であり、迅速な行動が取れると自負しているのなら、普段からいろいろなものを買い置きしておきましょう。あなたが強者なら、弱者への思いやりや社会全体のことを考えましょう。

買い占め、買いだめ行動の研究によれば、いったん買い占め買いだめ行動を取ってしまうと、その行動を止められなくなるようです。

初期中期に一度買い占め買いだめ行動を初めてしまうと、店でマスクを見るたびに、必要以上に大量の買い物をしてしまいます。その結果、家には大量のマスクがあり、店は在庫切れとなってしまいます。騒動がおさまった頃には、家に使い切れないほどの大量のマスクです。

◯マスコミの役割

マスコミの役割も重要です。少なくとも、面白い動画だからといって、あっという間にマスクが売り切れる映像を繰り返し流すようなことは控えてもらいたいと思います。

現在、マスコミも少しは反省しているのでしょう。マスク不足のネタの後に、「マスクよりも、十分な手洗いの方がむしろ効果的」などと、遠慮がちに言っています。

心あるマスコミ人は、自分たちの仕事で社会が良くなることを願っているはずです。マスコミ報道は、社会のムードを作ります。

◯規範意識

必要以上の異常な購入行動、買い占め、買いだめ、買いあさり。これは、良くないことだという規範意識は、大切です。「一家族一箱」といった制限以前に、非常時には譲り合いが大切だという意識が必要です。政府、マスコミ、ネット上のインフルエンサー。発信力を持っている人の出番です。

空気感は大切です。社会全体で、店の中で、家庭で、緊急時の買い占めはよくないという雰囲気を作りましょう。

もちろん、必要な買い物は必要です。規範意識を持った人が、損をする社会では困ります。「正直者が馬鹿を見る」ような世の中にしないことが大切です。

当地新潟で中越地震(2004年、M6.8)が発生した日の夜。帰れなくなった何十人かの学生と一緒に大学内に泊まりました。事務の方が夕飯の買い出しに行ってくれたのですが、おにぎりもパンも売り切れで、何十個ものカロリーメイトを買ってきてくれました。

「こんなにたくさん買い占めのように買うのは気が引けて、『学校に学生がたくさんいるんですよ』と言い訳して買ってきました」と語っていました。

これは必要な買い物だったのですが、大量買に対してこのような「申し訳なさ」をみんなで持ちたいと思います。

■これからのために

残念ながら、いつかまだ大きな災害は来るでしょう。今回のウイルスより、もっと毒性も感染力も強い新型ウイルスも、いつか発生するのでしょう。

建築、土木、医療、行政、多くの関係業界。様々な場で努力と準備が進められています。私たち市民には、私たちなりの戦い方があります。日頃からの備蓄、準備、相談も必要です。

パニック的行動は、しばしば被災地の周辺で起きます。最も大変な人々が助け合っているときに、まだ余裕のある地域の余裕のある強者たちが、異常なパニック的行動を起こし、日本中が混乱するきっかけを作ってしまいます。

SF映画やパニック映画でも、その危機自体よりも、むしろ私たちの恐怖と不安、衝動的行動の恐ろしさがよく描かれます。危機を大きくするのは私たちの心と行動であり、危機を乗り越えるのも、私たちの心と行動なのです。

知的ワクチンを打とう:新型コロナウイルス肺炎の感染予防とリスク・コミュニケーションの心理学

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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