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山梨コロナ女性問題へのご意見ご質問ご反論への回答:会話による相互理解を目指して

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
イラストはイメージ:みんな注目の話題。意見交換をしよう。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

■山梨コロナ陽性で移動女性問題

自覚症状があったのに勤務し、高速バスで県境を超えて移動し、友人らとバーベキューをし、検査で陽性が判明したのに、また高速バスで移動。しかも、最初は虚偽報告。

各メディアが批判的な報道をし、世間もこの女性をバッシングです。ネットでは、誹謗中傷に加えて、真偽不明のプライベート情報をさらすようなことも起きています。

この出来事に関して、昨日5/5「山梨コロナ女性はどこまで悪者か:過剰な防衛本能と歪んだ正義感の心理」をアップしました。

おかげさまで多くのアクセスをいただきました。同時に、多くのご意見ご質問ご反論をいただきました。ツイッター上で意見の交換もしましたが、多くの方々も同様の疑問をお持ちだと思いますので、ここでもツイッター上の発言に加筆して、ご回答したいと思います。

ネット上で、自分の気に入った情報だけを見るのではなく、一方的に自分の意見を述べて終わるのではなく、意見の交換をしていくことこそが大切だと思います。

■ご意見ご質問ご反論に答えて

Q. 彼女の行った行為は自覚しながら人を殺す可能性がある感染症をばら蒔いたことから、オウムサリン事件の実行犯と同等の扱いが正しいと思いますがね。

A. この女性は殺人罪で逮捕でしょうか。殺意はないから殺人罪にはならないでしょう。サリン事件と同じなんて言ってしまうと、サリン事件を軽視しているようにすら感じます。

今のところ新型コロナによる日本の死亡者は500人ほど。毎年季節性インフルエンザでなくなる人は、はっきりした統計はありませんが、3千人から1万人。

では、インフルエンザ陽性とわかっている人が高速バスに乗ったら、それも殺人に匹敵する行為で、誹謗中傷、個人情報さらしの目にあっても仕方がないのでしょうか。

Q. 今回は、そもそも感染していなくても自粛が要請されている中で、「感染が濃厚」な状態で移動し、「陽性」と言われた上で東京に戻りました。自分勝手な行動が非難されています。

A. この女性はとても不適切なことをしました。問題は、だからと言って、ネット上の個人攻撃は行き過ぎで、それは社会的問題だということです。要請を無視した身勝手な行動で非難されるのも当然ですが、殺人罪ではありません。

Q. 殺人罪にならず捕まらないからこそネットで誹謗中傷がふえるんでしょうね。殺人になりかねない行為をしておきながら逮捕されないから。

A. 記事に書いたように、リンチ(私刑)的行為の背景には、政府行政警察への不信感があります。殺人罪というわけにはいかないでしょうし、日本の要請も指示も罰則規定がないわけですが、行政によってこってり説教されたといった報道があれば、少しは違ったもしれません。

それでもリンチはダメですが。

Q. いいえ、こってり説教されていたとしても、一般人の心理としては、このような身勝手な行為をした人が拘束されていないなら、隣人かもしれないとして特定は進みますよ。

死ぬかもしれない感染症をばら蒔いた人への心理はそうなります。むしろそうなるということが理解できないなら心理学とはなんですか

A. 不安も不満も恐怖も処罰感情も当然で、理解できます。それで心を病む人がいれば、心理学はその人に寄り添います。

一方、その感情から不適切(時に違法な)行き過ぎた個人攻撃行動が起これば、今度はその人が加害者になってしまいますから、そうならないように守ります。そして社会的混乱を防ぎます。

Q. この女性が、犯罪と等しい事をしてるのも事実ですよね? 陽性と分かってて人と会う…で公共交通機関で帰宅する。コロナを移された人はたまんないよね?歪んでるのは彼女では?

A. この女性は悪いことをしたし、考えが歪んでいると思います。けれども、だからといって一個人をどれだけ誹謗中傷してもプライベート情報を公開しても良しと社会が考えるとすれば、その社会もまた歪んでいると思います。

Q. なぜ緊急事態宣言が延長されたのか? 皆が何の為に自粛してると思ってんの? こういう奴がいるから終息出来ないんだろとなるのは当然だと思うが。笑って許せるレベルの行為ではない。

A. おっしゃる通り、本当に困った女性です。迷惑行為です。全然笑って許せるレベルなんかじゃありません。ただ、だからといって、よってたかってネットリンチにしても良いわけではないと思います。

Q. 逮捕されてる訳では無いから悪質では無い? 悪質では無いのに叩かれ過ぎ? いやいや逮捕されてる方がマシなレベルだし、じゃあどの程度の悪質度なら叩かれてしかるべしなんだ?

A. 怒りの感情は当然です。友人家族の会話で、彼女を非難して叩くのもOKです。マスコミも批判的報道です(このマスコミ報道も問題ではありますが)。

ただそれでも、実名報道されてないのに、プライベート情報をさらすようなネットリンチは、認められません。逮捕されるような刑法犯も、実名報道されていないなら同じです。

Q. 無知は 許られるのか。社会が自粛している中 本人の陽性での検査をして 家にいるべきで弁護しようがないと思うが。

A. 法律も、コロナに関する要請も指示も、知らなかったで許されません。この女性の弁護も、あまりできません。みんなが怒り非難するのも当然です。

でも同時に、現代社会では私刑は許されないことも、ネットに名前などもさらすことの問題性も、知らなかったでは済まないでしょう。  

Q. 大学教授なんていい加減だな。こんな教授に教えられる学生は、社会で役に立たない。

A. もしも学生が、この女性は悪人だとして個人情報をネットでさらすようなことをしたり、そんな情報をリツイートしたりしていたら、すぐに説教して止めます。

「君の怒りはわかるけど、君の行動は大きな問題だし、就活に悪影響が出る可能性もあるよ」と。それから、大学の教員も、様々です。

Q. じゃあ聞くけど、こういう馬鹿のせいで、もしもあなたの大切な方が感染して大変な目にあっても同じことが言えるのか? 法的に罰せられないことから私刑が生まれるのは当然でしょう?

A. もしもそうなったら、私はとても怒るでしょう。訴えてやると思うかもしれません。ただそれでも、私がこの女性をネットで誹謗中傷し、氏名や住所の個人情報をさらすようなことは許されません。

私はそんな私刑をしません。もしそんなことをしたら、私は職を失うかもしれません。

Q. 行為の悪質度と社会からの攻撃の程度のバランスは、誰が決めるのか?罰則があれば抑止になり、行過ぎ私刑も防止できますね。

A. バランスは、難しいことですが、社会の合意の上で、法律や常識ということでしょうか。裁判もこれまでの判例を重視しますね。私刑はだめだし、個人情報をさらすのも許されていません。法的な刑罰は私刑を防ぐ一つの方法です。ただ刑罰が軽すぎると感じる人は、納得しないでしょう。

Q. 多くの人はそれだけ頭に来ていると思いますし、私も医学薬学に携わる者として、身勝手な行動をされる方に苛立ちを隠せません。

A. 私も看護教育に携わるものとして、病院スタッフの涙ぐましい努力を思うと、それに反するような心ない人々の言動に激しい憤りを感じます。

ただその怒りを、どのような方向に向け、どのような活動のエネルギーにしていくのかが問われているのだと思います。

Q. 日本中の人々が息を潜めてコロナと戦っているのに、こんな非常識な行為に対して処罰規定を作るべきでは?実際に援用するか否かは別にして、抑止力にはなりませんか。

A. たしかに、他国の方が強制力のある法律を持っていますね。抑止力にはなると思います。日本もそんな法律を作った方が良いのかもしれません。

同時に、そんな法律がなくても、多くの人が要請に応じて死者数増加を防げるなら、それは素晴らしいことかもしれないとも思います。

■コロナについてみんなで話そう

最初はちょっとドゲトゲしかったご質問も、会話をすると、穏やかになったりもします。もちろん朝まで議論しても、お互いの意見は変わらず、激しい討論になることもありますが。

ただ、コロナ問題に関しては、病気を防ぎたい思いでは一致できると信じています。ただその方法や、細かい部分では、意見が別れます。

前回の記事に関しても、もちろん賛同のご意見もたくさんいただきまして、励みになりました。

そしてたとえ意見は別れても、私たちの心が分断されるのではなく、相互支援関係の中で、コロナとの長い付き合いを上手にこなしていきたいと思います。

さらに騒動が収まった後で、この出来事で私たちの社会は成長したと言えるようにと願っています。

(子どもと話すのも、大事ですよ。「コロナについて子供と話そう:ウイルスにも恐怖にも負けない子にする心理学的方法」)

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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