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人と離れた会話でも意外と大丈夫な理由:新しい生活様式と社会的距離の心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:社会的距離を取りましょう。(写真:アフロ)

<人は、物理的距離が離れると視線を送りアイコンタクトを取って心理的距離を縮める。私たちは、人とは離れる。だが、心は離れない。>

■新しい生活様式、社会的距離

緊急事態宣言は継続です。でも、一切活動してはいけないわけではありません。

健康も大事ですが、様々な活動もお金も大切です(命が一番大切か:コロナとの長期戦のために:改定基本的対処方針を受けて)。

専門家会議は、感染拡大を防止しながら社会的な活動、経済活動を続けていく上で、私たちが身につけるべき「新しい生活様式」を示しました。

基本は、社会的距離、ソーシャルディスタンス。人と話すときにも2メートルの距離をとれ!です。

人と離れると、様々な心の問題が出てくることもあります。要注意です。

人が人と離れるストレス:社会的距離ソーシャル・ディスタンスの心理

人と距離を取らなければならないと言っても、近づいてきた人に怒鳴るようでは、より良い社会的活動はできません。上手に言わないといけmせんね。

社会的距離を保つように感じ良くお願いする方法

■社会的距離をとる大切さ

社会的距離をとることは、みんなが推奨します。

新潟大の斎藤玲子教授(公衆衛生学)も、「2メートルの距離を保てば飛沫感染の多くは防げると思う。が、日本では浸透しきっていない。感染を制御する上で、社会的距離がカギになる」と述べています。

■物理的距離と心理的距離:間に何があるか

人と離れて会話するって、最初は不自然です。でもすぐに自然に感じられます。それは、なぜでしょう。

「距離」には、物理的距離と心理的距離があります。

物理的距離はいつ誰が測っても同じです。2メートルは、2メートルです。

でも、人の心に感じられる距離、心理的距離は違います。

講師が聴衆の前で話すときには、演台を使います。偉い人が話すときほど、会場が広いほど、立派な演台が使われます。私も大きな会場で話すときには、演台が置かれています。

ただ私は、演台の横に出て話すこともあります。演台の後ろでも、横でも、聴衆との物理的距離はほとんど変わらないのですが、心理的距離が変わります。

立派な演台を使うと、そこで話している人も立派に見えやすいのですが、心理的距離は遠くなってしまうからです。

付き合い始めた二人が、向かい合う時はどうでしょう。二つの椅子が向かい合って近くに置かれていたら、緊張します。物理的距離も、心理的距離も、近すぎるからです。

ところが、この二人の間に小さなテーブルを起きます。椅子の位置は変えません。そうすると、二人の物理的距離は変わらないのですが、心理的距離が少し離れるので、恥ずかしくなく会話できるようになります。

■物理的距離と心理的距離:二人の行動

あなたが誰かと会話しながら歩いていて、二人でエレベーターに乗ったとしましょう。歩いている間は、適度な距離をとって普通に会話していましたが、エレベーターは、混んでいました。

二人の物理的距離が縮まります。すると人は、互いに目を合わせないようにして、会話も止みます。二人は心理的距離を取ろうとしているのです。

満員電車に乗っている人たちは、みんな「石」になっています。恋人同士でもなければ、あの混雑は不快です。そこで人は少しでも不快感を下げ、心理的距離をとるために、目を合わせず、会話せず、じっと乗っているのです。

物理的距離と、視線、アイコンタクト(目を合わせる行動)は連動しているのです。

人は、すぐ目の前の人と目を合わせたりしません。でも、少し離れれば、人と目を合わせます。

優れた講演の演者は、千人の聴衆の前で話す時も、意識的に会場のあちらこちらに視線を送ります。講演が始まって30分もすると、聴衆はみんな、一度は演者と目が合ったと感じるのです。

離れている時こそ視線は大事だと、知っているからです。

■コロナ禍での新しい生活様式としての社会的距離

私も、最近は来客と話すときに、距離を取ります。大学の研究室に置いてあるソファーの位置を離しました。ちょっと不自然なほどです。

私たちには、普段の社会的様式があります。来客と話すときの椅子の位置も、常識的な距離があります。でも、私たちは新しい社会的様式、社会的距離が求められています。

これまでの社会的様式としては離しすぎなので、最初は違和感があります。ところが話し始めると、人は自然と距離に合わせた視線、アイコンタクトを始めます。

物理的な距離が離れた分だけ、心理的な距離を縮まようとします。だから、少し会話をすれば、違和感は消えていくのです。

私は、先週スクールカウンセリングの場でも、社会的距離をとって面談しました。最初は少し不自然な感じがしましたが、少し話せば大丈夫。

特別に意識しなくても、人は物理的距離と心理的距離のバランスをとるのです。

■心の距離を縮めよう

「社会的距離」という言葉は、感染防止などの場面では単純に物理的な距離を表します。しかし社会学でずっと使われてきた「社会的距離」は、親しみを感じているかどうかという意味で使われます。

ある人々のことが嫌いで、親しみを感じていないことを、「社会的距離」があると言ってきました。

さて、コロナ禍の今、私たちは物理的な社会的距離をとるように勧められています。それは、感染拡大防止のために、大切なことです。

同時に、不要不急の県境を超える旅行などは控えるようにしています。外国との往来も控えています。それも、必要なことでしょう。

けれども、だからと言って、心理的な距離が遠くなり、社会学で言うところの親しみを感じないと言う意味の「社会的距離」ができてしまってはいけません。

距離を取らなければならないからこそ、心の絆を深めましょう。他県の人も、外国の人も敵ではありません。目の前にいる人との視線が自然にコントロールできる私たちです。

もっと遠くの人たちとも、心の距離を取らず、絆を深めることがきっとできるでしょう。感染拡大を防ぐのは、分断ではなく、一致です。

「サピエンス全史」の作者ユヴァル・ノア・ハラリ氏も語っています。

「新型コロナウイルスの大流行をグローバル化のせいにする人々がいる。感染爆発を防ぐためには、壁を築き、移動を制限し、貿易を減らせと。しかし、感染症を封じ込めるために短期的な隔離は不可欠だとはいえ、長期にわたる孤立主義政策は経済の崩壊を招き、本当の感染症対策にはならない。感染症の大流行への真のの対抗手段は、分離ではなく協力なのだ」。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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