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命が一番大切か:コロナとの長期戦のために:改定基本的対処方針を受けて

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:元気にジャンプ!(写真:Cultura/アフロイメージマート)

<命が一番大切。その言葉で、命の輝きを失わせてはいけない。>

■命のために

命を守るために、日々新型コロナウイルスと戦っている医療スタッフの方々を、心から尊敬します。

私たちの命と生活を守るために、毎日働いてくださっているエッセンシャルワーカーのみなさんに、心からの敬意を表します。

みなさん、ありがとう。本当にありがとう。

命は大切です。

現実でもドラマでも、命を守るために必死の努力は、私たちに感動を呼び起こします。

命はすばらしい。

でも、命って、何でしょう。

■自分の命を守ること?

まずは自分の命を守ること。それは大切です。できるだけコロナにも他の病気にもならないように努力すすることは、重要です。

では、私の家族が病院でコロナ感染者の担当になるとしたら、そんな危険を冒させない方が良いでしょうか。病院も、福祉施設も危険です。

そんなところは辞めなさいと言うのが正しいのでしょうか。

ドラッグストアーや、スーパーや、コンビニ。毎日何百人ものお客さんに接して、さらに文句まで言われて心が傷つくような仕事は、今すぐ辞めた方が良いのでしょうか。

誰の命も大切なはずです。誰の心も大切です。でも誰かが、命がけの尊い仕事をしています。体も心も苦しいけれど、頑張っている人がいます。

命を懸けて、体を張って、頑張ってくださっている人々のおかげで、私たちの命は守られています。

病人や高齢者や子供たち、弱者のために、戦っている人たちがいます。

(だから、働く人々の熱意を美談で終わらせず、その人々を守る最大限の努力をするべきです。)

■戦うも者の歌が聞こえるか:民衆の歌

ミュージカル俳優や歌手ら36人が歌う、ミュージカルの傑作「レ・ミゼラブル」の劇中歌「民衆の歌」が、4月26日YouTubeに公開されました。

それぞれ、自宅などから歌をリレー方式でつなぎます。新型コロナと戦っている人、我慢している人、苦しんでいる人々へのエールです。

ところで、このミュージカルの原作小説「ああ、無情:レ・ミゼラブル」は、フランス革命当時を舞台にした物語です。戦う者の歌が聞こえるか、この戦いの列に加われと、歌いあげます。

この小説は、革命が終わり平和になってから出版されたのではありません。フランス第二帝政と呼ばれる時代に出版されました。

苦しんでいいた庶民たちが、高価だった本をお金を出し合って購入し、回し読みされたと伝えられています。作品は、当時の人々にも大きな力を与えました。

さて、自分の命こそが一番大切ならば、命をかけて革命の戦いに参加するなど馬鹿げているでしょうか。

でも、私たちの社会は先人たちが命を懸けて戦ってくれたおかげで作られました。

もちろん、むやみやたらに戦いを勧めているわけではありません。時代の違い、状況の違いもあります。命は大切です。

けれども、この歌の中では、戦う者たちと心が響き合うときには、「新たに熱い命が始まる」と歌っています。

■命を守るために?

全国で学校が休校になっています。学校再開の声も聞こえますが、怒る人もいます。

これは命の問題だ、子供たちの命を守るためだ、勉強と命とどちらが大切かと。

たしかに、子供たちの命を守ることは何よりも大切です。ただ、この論法で行くと、新型コロナウイルスが撲滅されるまで学校は再開できないのでしょうか。

新型コロナだけではありません。季節性のインフルエンザでは、国内で毎年何千人もの人が亡くなっています。インフルエンザの季節も、数か月休校にすべきでしょうか。

臨海学校など、とんでもないことでしょうか。海水浴など、危険極まりないものです。部活の野球もサッカーでも、ケガはあります。

学校に自転車通学する子もいますが、そんな危ない乗り物に乗せてはいけないでしょうか。命がかかっているのですから、何時間でも歩かせれば良いでしょうか。もっとも、歩行者も交通事故で亡くなりますが。

だから今すぐ学校を再開しろと言っているのではありません。感染の爆発的拡大を防ぐためには、できるだけ「3つの密」を防ぐこと、人との接触を減らすことは大切です。今は休校も必要でしょう。

ただ、命の危険があることは全部禁止というわけではないということです。

子供だけの問題ではありません。日本では毎年自宅の浴室で1万9千人が亡くなっているという調査もあります。命がかかっているのだから、風呂に入るなという話は聞いたことがありません。

毎年正月には餅がのどに詰まる事故が発生していますが、餅は発売中止になりません。

事故が起きても仕方がないと言っているのではありません。交通事故も、風呂も、餅も、事故防止の最大限の努力はするべきです。

ただ、私たちは日々リスクと共に生きています。

■命を守るために

命とお金、命と勉強、命と仕事。どちらが大切か。それは命でしょう。でも、大切な命を守るためには、お金が必要であり、勉強や仕事が必要です。

■命とは

一切の感染症から子供を守りたければ、生まれてすぐに無菌室に入れれば良いでしょう。そのまま年老いて死ぬまで無菌室から出なければ、感染症にはかかりません。

でもそれが、生きているということでしょうか。

漫画家の岡崎次郎さんの作品集「アフター0」(小学館)の中に、平均寿命300歳のとても長寿な一族が登場するストーリーがあります(「アフター0」第3巻5話「長寿の重さ」6話「長命人龍男の優雅な生活」)。見た目は普通の人間ですが、成長老化がとても遅いのです。

ただ長寿とはいえ、彼らも普通に病気になり、ケガもします。何事もなければ長生きしますが、大病をすれば死んでしまいます。

この長寿一族は、膨大な資産を築いていますが、感染症や事故を極端に恐れ、社会と隔絶された生活をしていました。そんな生活に疑問を感じた一人が・・・と物語は続きます。

海も山も行かず、スポーツもせず、自転車にも自動車にも乗らず、通勤も通学もしないで、階段の上り下りもせず、湯船にも入らない。ただ、生きていれば良い。命が一番大切だから。

そんなふうに考える人はいないと思います。

たとえば、我が子が宇宙飛行士になったらどうでしょうか。とても名誉なことでしょうか。それとも、とても心配でしょうか。宇宙飛行士は結構亡くなっています。危険な職業です。

それでも、宇宙飛行士はみんなの声援を受けて、宇宙に飛び出します。

誰かが高い山に登り、深い海に潜り、高度なスポーツや芸術に挑みます。

「気を付けて、行ってらっしゃい」の声をうけて、学校へ行き、会社へ行き、病院や福祉施設や漁船や建築現場で働き、修学旅行や海外出張へ出かけます。

それぞれリスクはあるけれど、それが生きるということではないでしょうか。

コロナなんて気にするなとか、無謀なことをしろと言っているのではありません。新型コロナも、日常生活上の事故も、冒険に出かけるときも、命が大切、安全第一です。

それでも、ただ生きているのではなく、命を輝かせることが必要です。

今感染爆発の危険がある今は、「不急」かもしれません。今は、混雑の危険性がある登山もサーフィンも控えましょう。イベントも次々中止です。けれど、命輝かせる活動は「不要」ではりません。

たとえリスクはあっても、命を輝かせる活動は、「不要不急」ではなく「必要不可欠」です。

手を洗え、顔に触るな、距離を取れ。私たちは、コロナと戦うために新しい行動習慣を身につけなければなりません。コロナとは、長期戦、長いお付き合いになりそうです。

後日政府から発表される、改定版の「基本的対処方針」。報道によれば、引き続き全都道府県を緊急事態宣言の対象とするようですが、「まん延防止」の項目は全面的に書き換えられ、「段階的に学校教育を再開する」方針が示される模様です。

新型コロナウイルスの登場は多くの悲劇を生んでいます。しかし、私たちはウイルスに負けず、ウイルスと共に生きていきます。

この戦いを通して、「新たに熱い命」が始まりますように。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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