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私たちはみな「100日後に死ぬワニ」:死を意識することで見える世界

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

<現代人は、死を隠す。しかし私たちはみな、「100日後に死ぬワニ」。ほんの少し数字が違って、それは3日後かもしれないし、60年後かもしれないが。終わりがあることを知ることで、見える世界もある。今の意味が増す。>

■100日後に死ぬワニ

ネット上の4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」。

何気ないワニくんの日常が描かれています。1日分ずつ毎日ネットにアップされていますが、4コマ漫画の最後には、「死ぬまであと100日」「死ぬまであと99日」と、カウントダウンがされていきます。

基本的には、サザエさんのような、ほのぼの漫画です。ただ、サザエさんは物語の中では永遠に今の状態が続きますが、ワニくんは、死ぬまであと98日、97日と、毎日残された時間が減っていくのです。

あと3日、あと2日、そしてもうすぐ、その日がやってきます。

■100日後に死ぬとわかっているだけで

100日後に死ぬとわかっているだけで、何気ない日常が、切なく、味わい深いものに変わります。

限られた人生だから尊いといった物語は、様々な形で語られてきました。

「死刑囚」と「無期懲役囚」に関する心理学の研究もあります。

無期懲役囚は、希望を失い、だらだらとした生活をしがちです。しかし、死刑囚は自分の人生を振り返り、生きる意味を考えます。

今までの生活とはかけ離れた生活を始める死刑囚もいます。哲学書や宗教書を読み、信仰を持つ人もいます。限られた人生を精一杯生きているようにも感じられます。

「私たちはみんな、本当は死の宣告をされている死刑囚のようなものです。死を意識できるから、意義ある生活が送れます。しかし、終わりが来ることを見えなくしてしてしまえば、私たちは希望をなくしてだらだらと生きる無期懲役囚になってしまうのです」(生きること、死ぬこと:100日後に死ぬワニと新型コロナウイルス、そして一人の少女の死:Y!ニュース有料)。

心理学の研究によれば、人生を深く味わうことは、幸福の一つの条件です。終わりを意識することで、人生の味わい方は深くなるのでしょう。

高齢者は、人生をしみじみと振り返ります。卒業や退職が近づいたときも、今までの学校生活、会社生活を振り返ります。転居が近い時も、同じような気持ちになります。そして、毎日を大切にします。

年末が近づき、「今年もあとわずか」などという時も、同じような心になることでしょう。

■実は私たちはみんな、「100日後に死ぬワニ」

実は私たちはみんな、「100日後に死ぬワニ」です。学校も職場も生活も変化します。いつまでもは続きません。そして人はみな、いつか死にます。

たとえば私は、「22年後に死ぬヒト」です。

今ちょうど60歳なので、男性60才の平均余命は22年。私は、22年の余命宣告をされています。

いや、22年はあくまで平均であって、それは明日かもしれませんが。これは、どんなに若い人も、平均余命が長いだけで、構図は同じです。

人は、一日生きれば確実に余命が一日短くなります。けれど、普段はそんなこと気にしていません。

特に現代人にとっては、死の現実味は薄くなりがちです。だから、一人の死は、昔よりもずっとインパクトがります。一人の子供の死も、一人の兵士の死も、大きな出来事です。

■死生観と死のタブー視

各自の「死生観」は重要です。死をどう考えるかが、今をどう生きるかにつながります。より良く生きることが、よりよく死ねることにもなるでしょう。

現代人は、死をタブー視しているとも言われています。特に日本人はそうでしょう。

牧師や神父が入院中の患者さんの病床にいくことは珍しくありませんが、お坊さんがお坊さんの服(法衣)を来て病院にいたら、縁起でもないと言われそうです。

「死のタブー視」については、「死の風化」といった言葉を使う人もいます。死をできるだけ日常生活から離し、見えないようにしようとする態度です。「死の管理化」「死の無個性化」と表現することもあります。

ただ、死を見ないようにすることが、正しい死への態度ではないでしょう。死を意識することで、見える世界もあります。

愛する人との死別は、辛く悲しいものですが、死について考え語ることは、悪いことではありません。「100日後に死ぬワニ」は、決して不謹慎でも悪趣味でもありません。

いつ死ぬのかは、私もワニくんもわかりません。けれども、人生には限りがあり、どんなに愛する人ともいつか別れると、死を正しく意識し正しく受容することは、良い生き方につながります。

■新型コロナウイルスと私たち

人は死にます。病気はうつります。治らない病気もあります。

新型コロナウイルスの流行は、現代人が忘れかけていた、「薬もない伝染病による死の恐怖」を復活させました。日本はまだ幸にして医療崩壊などしていませんが、イタリアの人々は死への恐怖を感じている人も少なくないようです。

病気など流行しない方が良いですし、みんなが長生きして欲しいと思います。それでも人の時間は有限で、いつか最期がやってきます。

この作品「100日後に死ぬワニ」と感染症の流行は偶然なのでしょうが、このような時期だからこそ、作品への注目も増しているのかもしれなません。

補足3/20<「100日後に死ぬワニ」最終回100日め:私たちの命は桜の木のように

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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