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お年玉活用法:子供が一生お金で困らない金銭教育の心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
写真はイメージ:お年玉の活用方法(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

<子供がお金という魔物に飲み込まれず、上手に乗りこなせるようになるための心理学。お金よりもっと大切なもののためのお金活用法。お年玉や小遣いは、どう渡す?>

■お年玉の現状。相場は? 平均は?

「お正月に一番お金持ちなのは子供」なんて言う人もいます。少なくとも子供には大金です。そのお金でダメになる子もいれば、大きく成長する子もいます。何が違うのでしょうか、どうすれば上手にお年玉を活用できるのでしょうか。

お年玉の相場は小学校低学年で3,000円、高学年で5,000円、中学生は5,000円か10,000円、高校生になると10,000円です(住信SBIネット銀行の調査)。

小中学生の97.5%がお年玉をもらっており、 もらったお年玉の平均金額は、小学生21,382円、中学生は30,507円でした(バンダイの調査)。

また、お年玉をきっかけに「お金の教育」を実施している親は63.4%に及びます(明光義塾の調査)。

せっかくこれだけのお金が動いているのですから、子供にとって有意義なものにしたいものです。

■お年玉は愛の象徴、「名前のついたお金」

千円はどんな千円でも同じ千円の価値です。しかし、心の中の価値は違います。子供は、お年玉をもらうことで、自分が愛されている実感を得ます。

お正月の心理学:お年玉は愛の象徴:希望と緊張とリラックス効果

お金には「名前がついていないいお金」と「名前がついているお金」があります。私の個人的な体験ですが、高校生の時に生まれて初めてもらった原稿料の2千円を、ずっと使うことができませんでした。

この2千円はただの2千円(名前がついていないいお金)ではなく、努力と喜びと記念のお金(名前がついているお金)だったからです。

子供がお年玉をもらった時には、お年玉をくれた人の愛を強調しましょう。大金を手にすると、子供でも金銭感覚が狂い、いつもは大金に感じる千円が、「たったの千円しかくれなかった」と感じてしまうことがありますが、ここは親の出番です。

お年玉をくれた人は、あなたのために一生懸命お年玉を用意してくれたことを、伝えましょう。そうすれば、お年玉のお金は「名前がついているお金」になり、大事にできます。お年玉で買ったものも、大事なものに感じられるのです。

■お金の悪影響

大金を手にすると、小さな金額に無頓着になります。これは大人も同様ですが、普段は大切にしてよく考える金額でも、もっと大きなお金を手にすると、お金の使い方が雑になります。

さらに、愛する人からの大切なお年玉と思えれば良いのですが、「名前のついていない」お金になってしまうと、苦労せずに得た大金になるので、あっさりと使ってしまうことも起きます。その結果、荒いお金の使い方を身につけさせることになってはいけません

お金で何でも好きなだけ買えるとなれば、子供の自制心、自己制御力は低下します。数万円のお金とは比べ物にならない大切な心の力を失いかねません。

また、大金に接すると、小さな喜びを感じにくくなるという研究もあります。これは、実際に大金を自分のものにしなくても、大金を触るだけでも起きる現象です。

お金に接し、お金のことを考え過ぎると、頑張って問題に取り組む力が減ったり、困っている他人を助けにくくなるということも、研究によって示されています。この現象は、子供にも大人にも見られました。

■お金教育のよくある間違い

お金には危険な魔力があります。しかし、お金を悪者にすれば良いわけではありません。お金は汚いもので、子供はお金のことなど口にしてはいけないというのも、現代的ではないでしょう。お金の大切さを教えることも必要です。

お金を渡せば良いわけではありません。行きすぎた贅沢は悪影響をもたらします。しかしだからといって、うちにはお金がないと子供に言いすぎてもいけません、子供は意外と深刻に受け止めて、大きなストレスを持つこともあるからです。

お小遣いを渡さない親もいます。必要なものがあれば(必要だと親が判断すれば)、その分のお金を渡すというシステムです。一見合理的ですが、これでは子供がお金について学ぶチャンスを失います。

子供の発達段階に応じて、1日のお小遣い、1週間分のお小遣い、1ヶ月分のお小遣いを渡しましょう。お小遣いの使い方は、基本的には子供に任せましょう。子供は無駄なものにお金を使い、衝動買いなど失敗もあるでしょう。しかし、その経験を通して、子供はお金の使い方を学ぶのです。

■お小遣い、お年玉の適切な金額は?

平均や相場、常識的な金額を考えることは大切です。でも、決まってはいません。基本的にはいくらでも良いでしょう。それぞれのご家庭で標準が違うからです。ただ、だらだらと渡すことは良くないと思います。

ちょっとおねだりすれば、いくらでもお金がもらえるのでは、計画的なお金の使い方を学べないでしょう。ただし、お年玉をはじめ、祭りとか、お盆玉など、特別なお小遣いも、あっても良いと思います。だらだらとした与え方でなければ。

■子供とお金の正しい関係

子供がお金に固執し過ぎるのは悪影響が考えられます。一方、全く考えられないのも困ります。子供にとって高価な欲しいものがあった時、たとえば誕生日まで待つとか、お年玉を貯めて買うなどの習慣を身につけさせましょう。

大切な人からもらった大切なお金を、有意義に使えるようにしましょう。ただし、有意義と言っても親の価値観の押し付けではなく、子供自身の判断力と決断力を育てましょう。

お金は大切です。でも、お金よりもっと大切なものがあることを教えましょう。ただし、そのお金よりずっと大切なものを守るためには、やっぱりお金が必要だとわからせましょう。

命も、友達も、家族も、守るためにはお金が必要です。心理学の研究によれば、お金を得ること自体で幸福になるのではなく、お金の使い方が幸福感を左右します。そして、お金を自分だけのために使う人よりも、人のためにも使える人の方が幸福感は高まります。

子供にお年玉を渡せることは、幸福なことです。

お金より大切なものにためにお金を活用する。それは、アメリカの女の子が自らもガンと戦いながら、小児がんの子供たちを救うためにレモネードを売るような感覚です。この話は実話で、この一人の女の子が始めた活動は、大きくひろがりました。彼女はわずか8歳で亡くなりましたが、素晴らしい人生を送りました。

子供が一生お金に困らないとは、高収入をえられるという意味ではありません。何億稼いでも、無一文になる人もいます。大金持ちでも、不幸な人はたくさんいます。お金という魔物に飲み込まれず、お金を上手に活用できるように、お正月のお年玉を金銭教育のために有効活用いたしましょう。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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