平成の時代をどう評価するか。過去は変えられませんが、「歴史」は令和の私たちがこれから書いていきます。人生も、同じです。過去は変えられませんが、人生は変わります。過去が与える影響は変えられます。

■平成そして令和

「平成の時代が終わろうとしている」。「新しい令和の時代が始まる」。そのような多くの声が聞こえてきます。元号の変わり目に、平成時代を振り返るテレビや記事が数多く出ています。

■歴史とは

歴史は事実ですが、事実全てが歴史になるわけではありません。私たち（歴史学者たち）が、関心を示し、それぞれの価値観で意味を見い出し、膨大な事実から取捨選択して並べたものが、「歴史」です。タイムマシンでも使わなければ過去の事実は変わりませんが、歴史は変わります。歴史は書き換えることができるのです。

ある時は犯罪者と言われた者が、時が経てば革命家と言われ、革命が成功すれば英雄と言われます。時々の為政者たちによって都合よく歴史が書き換えられることもありますが、誤解が解けて再評価されることもあります。歴史は過去のものではなく、今の私たちが作るものなのです。

■時代とは

時代とは、連続的に続く歴史、時間の流れの中で、ある特徴を持ったひと区切りです。江戸時代とか、平安時代など、様々な時代があります。昭和とか、平成などは、天皇陛下が代替わりしたからといって本当に時代が変わるわけではありませんが、時代が変わる雰囲気にはなるでしょう。20世紀が21世紀になるのも同様です。

時代は、歴史学的にはかなり長い期間の一区切りですが、人生の中で使われる「時代」は、もっと短いものです。子供時代、中学生時代、青春時代、幸せだった時代など、私たちは様々に人生を区切ります。

■人生とは

人生とは、一日一日の積み重ねです。その積み重ねの結果が、今の私の体であり、心であり、仕事や人間関係につながっています。しかし、毎日毎日の膨大な出来事など、ほとんど覚えてはいません。大人になって、どれほど小学校や中学校のことを覚えているでしょうか。

人生とは、私たちが自分の過去を振り返ってみたときに目に映る一連の記憶です。他人は、誰かの人生をまとめ上げて意味づけをしますが、人は自分自身の記憶を整理し、人生を作り上げます。

ある将棋の解説者が語っていました。

「不思議なもので、最後に将棋に勝てば、全ての将棋の手は良い手になり、最後に負ければ全てが悪い手になる」。

今、結局幸せになっているなら、自分の卒業した学校も、暮らした街も、良いところだと感じやすいでしょう。

何を記憶しているかが、私たちの人生を作り上げます。しかし心理学の研究によれば、単に何を記憶しているかだけが問題なのではありません。

過去はもう過ぎ去ってしまい、ほとんどの日常は記録になど残っていないのですから、今の記憶が私の人生だとするなら、過去が変えられないように私の人生も変えられないでしょうか。しかし過去は変えられないけれど、人生は変えられます。新しいこれからの人生も作れるのです。

■記憶と人生・新しい時代と人生のために

○楽しい記憶：普通の記憶：苦しい記憶＝3:6:1

私たちは、私たちが自覚している以上に多くのことを記憶しています。ただ普段は思い出せないだけです。ただ、記憶しているとはいえ、記憶は日々変化し続けています。多くの場合、記憶は浄化していくのです。

私たちは様々な時代を生きてきました。戦争の時代を生きてきた人もいれば、高度成長時代に生きてきた人もいます。しかしそれでも、多くの人の楽しい思い出、普通の思い出、苦しい思い出の割合は、それほど変わらないという研究があります。