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『あまちゃん』再放送で、あらためて追体験する「3・11」

碓井広義メディア文化評論家
三陸鉄道南リアス線(写真:イメージマート)

現在、再放送中の朝ドラ『あまちゃん』。

先週末から今週にかけて、2011年3月11日に起きた「東日本大震災」を描いています。

9月2日(土)に放送された第132回では、番組終了7分前に「2011年3月11日」の表示が出ました。

天野アキ(能年玲奈、現在はのん)は、翌3月12日に「GMT5」と一緒に行うコンサートに向けて、特設ステージでリハーサル中です。

一方、北三陸では、そのコンサートを観るために、ユイ(橋本愛)が北三陸鉄道で出発していきました。

そして、4日(月)の第133回。

走る列車の車内で、コンサートのチケットを手にしたユイが、窓の外に広がる海の風景を眺めています。

そこに、アキの母・春子(小泉今日子)のナレーション。

「それは…突然、やって来ました」

アキの祖母・夏(宮本信子)の携帯の「緊急警報」が響きます。

トンネルに差し掛かった北鉄の車内。

ユイが何かを感じて「…え?」と顔を上げます。地震の発生でした。

東京EDOシアターのレッスンルーム、スリーJプロのオフィス、荒巻(古田新太)の部屋、無頼鮨の店内など、それぞれの場所で大きな揺れに驚く人たち。

列車は、大吉(杉本哲太)の判断で急ブレーキをかけ、トンネルの中で停車しました。

観光協会の無人のオフィス。

菅原(吹越満)が制作中だった、北三陸の「ジオラマ」が映し出されます。

そこに、春子のナレーション。

「3月11日、午後2時46分の時点で、運行中だった北三陸鉄道リアス線の車両は2台」

ジオラマの高台で停まっている車両の模型。

春子「1両は海に迫る高台で停まり、もう1両は畑野トンネルの中…」

車内では大吉が無線で本社の吉田(荒川良々)と連絡を取ろうとしますが、電波状態がよくありません。

ようやく、吉田の声が聞こえました。

「津波! 津波が来ます! 大津波警報、発令! 避難しまーす!」

観光協会のジオラマ。

海を表現していた青のアクリル板が砕けて、陸地に飛び散っていました。大津波の脅威です。

東京では、アキたちがテレビを見ています。

テレビの画面に映っているであろう津波の映像は、視聴者には一切見せていません。

アキの顔に、ナレーションが重なります。

春子「映画か何かみてえだなあ…。とても現実に起こっていることとは思えませんでした」

テレビを見つめ、ざわつく人たち。

春子「周りのみんなも、ウソ~とか、何これ? なんで~? とか、とりあえず声に出すものの、気持ちが追いつかなくて…」

被災地以外の人たちの多くが、そんな状態だったと思います。

列車の中では大吉が、外の様子を確認しようと決意します。

暗い線路の上を歩き、トンネルから出てくる大吉。

その表情!

後ろからユイが来たことに気がついた大吉が言います。

「見るな! ユイちゃんは見てはダメだ!」

しかしユイは、「ごめん、もう遅い…」

信じられないという、ユイの表情。

春子「そこで2人が見た光景は、言葉に出来るものではありませんでした」

観光協会のジオラマ。

トンネルの外には、破壊された橋が。

春子「ただ一つ言えるのは、あの時、ブレーキをかけなければ、2人はその光景を見ることすら、叶わなかったということ」

それが、多くの人たちの明暗を分けた、あの地震と津波でした。

このドラマは、地震や津波を見せることなく、壊れたジオラマと、大吉とユイの表情で見る側に想像させ、その衝撃と被害の大きさを伝えたのです。

本物の映像は多くの視聴者の目に焼きついていました。

何より、被災地の皆さんもこのドラマを見ているのです。

あの日の出来事を思い起こさせるには、必要かつ十分、しかも表現として優れたものでした。

脚本と演出、そして俳優陣の演技に、あらためて感心します。

この後、アキがどう動くのか。再放送でも注目していきたいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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