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漫画や小説の「原作」を超えて、「ドラマならではのリアル」なヒロインを生んだ佳作

碓井広義メディア文化評論家
『波よ聞いてくれ』の小芝風花さん(番組サイトより)

間もなく、夏ドラマがスタートラッシュを迎えることになります。

あらためて春クールを振り返ってみると、漫画や小説を原作とした「女性ドラマ」が目立ちました。

波瑠主演『わたしのお嫁くん』(フジテレビ系)、奈緒主演『あなたがしてくれなくても』(同)などです。

その中に、原作を超える魅力を持つヒロインたちがいました。

芳根京子『それってパクリじゃないですか?』

1本目は芳根京子主演『それってパクリじゃないですか?』(日本テレビ系)。

芳根さんには、なぜか「お仕事ドラマ」がよく似合います。

出世作のNHK朝ドラ『べっぴんさん』も、実在のアパレルメーカー創業者をモデルにした、一種のお仕事ものでした。

その後、『チャンネルはそのまま!』(テレビ朝日系、北海道テレビ放送制作)ではテレビ局の報道記者。

『半径5メートル』(NHK)では雑誌編集者を演じていました。

本作の舞台は飲料メーカーで、主人公の藤崎亜季(芳根)は新設の知的財産(知財)部の所属です。

たとえば「商標権の侵害」が発生します。

パクリとパロディーの違いは? 

オマージュやインスパイアは許される? 

親会社から出向してきた、弁理士の北脇雅美(重岡大毅)は知財のプロです。素人同然の亜季は彼を通じて学び、成長していきます。

それは仕事だけでなく、一人の女性として、人間としての成長でもありました。

また見る側も、知財が開発に関わった人たちの汗と涙の結晶であり、「商標」は努力の証明であることが分かっていきます。

小芝風花『波よ聞いてくれ』

2本目は、小芝風花主演『波よ聞いてくれ』(テレビ朝日系)です。

舞台は千葉県の架空の街。

スープカレー屋で働いていた鼓田ミナレ(小芝)は地元ラジオ局の麻藤兼嗣(北村一輝)にスカウトされ、ラジオパーソナリティーとなります。

このドラマ、何よりミナレのキャラクターが際立っていました。

気合で生きているような金髪のヤンキー系。がさつで無神経なところはありますが、裏表がなくサッパリした性格です。

仕事も私生活も失敗続きなのに全くめげないのがいい。

ミナレは高速回転の口調ですが、話す内容は面白い上に聞き取りやすい。

毎回、リスナーや周囲の人たちを救っていきますが、彼女が状況を動かすというより、状況自体をぶっ壊していくタイプです。

そんなヒロインを、小芝さんが全力で体現していました。

最終回では、放送エリアで地震が発生し、大停電となります。

麻藤は、ミナレの深夜番組『波よ聞いてくれ』を朝まで続けさせます。

「おまえがいつものように、一人じゃない、大丈夫だって声を届けることに意味があるんだ」と激励する麻藤。

極めてパーソナルなメディアであるラジオの力が、ミナレを通じて発揮されていきました。

肩の力を抜いて役柄に溶け込む芳根さん。

過剰なほどの熱量で役を引き寄せる小芝さん。

それぞれの手法を駆使して、「ドラマならではのリアル」な女性像を生み出していた2人に拍手です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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