Yahoo!ニュース

『舞いあがれ!』がラストで見せた異次元の「着地」

碓井広義メディア文化評論家
福原遥さんが演じたヒロイン・舞(番組サイトより)

NHKの連続テレビ小説『舞いあがれ!』が終了しました。

振り返れば、途中まではタイトルそのままに、ヒロインがいわゆる普通のパイロットになると思っていたものです。

大学で人力飛行機作りに励み、航空学校に入って本格的にパイロットを目指していたからです。

しかし、実家の町工場で働いた後、「東大阪の町工場を繋げて、新しいものを作る」という目標で起業。

その中で出会ったのが「空飛ぶクルマ」でした。

3月31日の最終回では、舞が操縦する空飛ぶクルマの運行がスタートしました。

まさに、「舞いあがった」わけです。

凄まじかった「最終週」

それにしても、最終週(3月27日~31日)の展開は凄まじかったですね。

週の前半、夫の貴司(赤楚衛二)は創作の煩悶を抱えて、コロナ禍のパリにいました。風景は一度も見せなかったけど(笑)。

空飛ぶクルマの製作はなかなか進みません。

最終回までの数日で、どう決着をつけるのだろうと思っていました。

すると最終回の前日30日(木)に、ドラマの中の時間が2020年から26年、つまり6年後の“未来”へとジャンプしたのです。

いや、びっくりです(笑)。

貴司は「歌集」ではなく「随筆集」を出版しており、その文章の中で経緯をさくっと説明していきます。

「それから6年、妻はパイロットとして飛行試験を繰り返し、仲間たちと空飛ぶクルマの改良を重ねた。やがて厳しい基準をクリアすると、その機体は日本の空を飛び始めたのだ」

って、いきなり飛べるようになっていた(笑)。

そして翌2027年、空飛ぶクルマ「カササギ」は五島列島での運航を始めたのでした。

全員集合の「最終回」

最終回は、この日のフライトと、それを見守る「舞が関わってきた人たち」が描かれました。

機内にはパイロットの舞と、車いすの祖母・祥子(高畑淳子)と医師。

貴司や娘の歩(浅田芭路)、母のめぐみ(永作博美)が見送ります。

めぐみは亡き夫・浩太(高橋克典)に、「浩太さん、舞が空を飛んでる。イワクラのネジを乗せて」と語りかけました。

舞の飛行は、関係各所にネット中継されています。

たとえば、東大阪にある貴司の実家、お好み焼き屋「うめづ」。

貴司の両親(山口智充、くわばたりえ)や、カササギの部品を作った町工場の人たちが、パソコンの画面の前で大盛り上がりです。

また、カフェ「ノーサイド」でも。

ここには兄の悠人(横山裕)や久留美(山下美月)、浪速バードマンのメンバーや、飛行学校の同期たちも来ています。

「親父、夢が叶ったなあ」と悠人。

スワン号での奮闘を思い出す由良(吉谷彩子)は、「岩倉、じぶん(あなたは)最高やで!」。

飛行学校での厳しい訓練。大河内教官(吉川晃司)の言葉も蘇ってきます。

「プロになれば、君たちはまた苦しむかもしれない。でも答えは一つではない。大切なのは、これからどう生きるかだ」

五島列島の上空を順調に飛行する、カササギ。

祖母の祥子が、幼かった舞に語りかけた言葉が、あらためてじわりと染みてきます。

「舞もバラモン凧のごたあ(のように)、どがん向かい風にも負けんと、たくましく生きるとぞ!」

さらに、機内の祥子が言います。

「舞や、向かい風に負けんかったねえ」

そして舞は、前方をしっかりと見据え、落ち着いた操縦を続けています。

着陸も近いようで、コントロールに連絡。

「こちらカササギ。間もなく一つ目の目的地に到着します!」

そんな舞の笑顔で、ドラマは大団円となりました。

異次元の「着地」

「飛行学校」、「東大阪の町工場」、さらに「空飛ぶクルマ」。

いずれも、脚本家や制作陣が、実際の「現場」をしっかりと「取材」していたことが、見ていてよく分かりました。

物語の背景部分の多くが、現実を踏まえて構成されており、時には「ドキュメンタリー」の様相さえ呈していたからです。

リアリティーを支えるという面では結構なのですが、取材した内容が「ナマの形」で出ていたきらいがありました。

それがドラマ全体を、あまり跳ねたり、弾んだりしない、やけに生真面目な、ちょっと窮屈な印象にしていたのかもしれません。

とはいえ舞は、最終週の、それも最後の2日間で、「空を飛ぶ」という幼い頃からの夢も、「みんなを繋ぐ」という大人になってからの志(こころざし)も、アッパレ実現したことになります。

この「奇跡の2日間」は、大相撲でいえば、もう後がない土俵際における、乾坤一擲(けんこんいってき)の「うっちゃり」。

もしくは、最終回の放送が3月31日ということで、出演者全員を集めての「年度末総決算」。

形としては、「未来」に希望を託して終わる、異次元の「着地」。

こういう朝ドラも、たまにはアリではないでしょうか。

というわけで、出演者、スタッフの皆さん、おつかれさまでした!

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

碓井広義の最近の記事