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『六本木クラス』は、原作を尊重しながら独自のアレンジに挑む

碓井広義メディア文化評論家
『六本木クラス』の葵、新、優香(番組サイトより)

先日、竹内涼真さん主演『六本木クラス』(テレビ朝日系)について、取材を受けました。

その際、以下のような概要の話をさせていただきました。

「復讐物語」という軸

『六本木クラス』のベースになっているのは、もちろん韓国のヒットドラマ『梨泰院(イテウォン)クラス』です。

とはいえ、『梨泰院クラス』を見た人、見ていない人、どちらも十分楽しめる1本になっているのが特色です。「復讐物語」という軸がしっかりしているからでしょう。

主人公は、六本木で居酒屋を経営している宮部新(竹内)。

「復讐物語」の核となるのは、父の信二(光石研)が勤めていた長屋ホールディング会長・長屋茂(香川照之)と、その息子である龍河(早乙女太一)との因縁です。

「六本木」メンバーへの感情移入

ドラマの導入部で描かれた、新の「追い込まれ方」が凄まじかったです。龍河のイジメを止めたばかりに退学処分。長屋に逆らった信二も退職。

2人で居酒屋を始めようとした矢先、龍河が起こした交通事故で信二が死亡。新は龍河を痛めつけたことで逮捕され、実刑判決を受け、刑務所に入ります。

いわば人生そのものを破壊されたわけで、新の「為すべきこと」を印象づけました。

人気ドラマのリメイクですから、当初は『梨泰院クラス』との比較で語られることが多かったですね。

しかし、第3話あたりからは、韓国の梨泰院ではなく、日本の六本木で生きる、新、優香(新木優子)、葵(平手友梨奈)たちに感情移入する人が増えてきたと思います。

平手友梨奈の健闘

特に注目を集めたのが、葵役の平手友梨奈さんでした。

『梨泰院クラス』を見た人の多くが、「誰もキム・ダミが演じるイソは超えられないだろう」と感じていたのではないでしょうか。

しかし、平手さんはイソではなく、別人格である麻宮葵を見事に造形しています。

その存在感と演技力が『六本木クラス』の印象を強め、全体をけん引する大きな力になったのです。

独自のアレンジ

原作を元に作られている以上、物語の大筋は同じかもしれません。でも細部には、しっかりと独自のアレンジが施されています。

たとえば、4話で登場したトランスジェンダーのりく(さとうほなみ)のエピソードなどは、原作とは異なるものです。

日本と韓国ではトランスジェンダーに対する意識が違うこともあり、その辺りを丁寧に補強している感がありました。

原作の大きな流れを踏襲した上で、『梨泰院クラス』ファンを幻滅させない形で独自のアレンジ、つまり日本風のローカライズを行っている。

それが、『六本木クラス』ならではの物語の奥行きを生んでいるのです。

竹内涼真の代表作となるか

見る人の気持ちを、“快感”だけでなく“感動”で揺さぶるのが、いいドラマであるならば、『六本木クラス』はこれまで以上に見る側を巻き込んでいく可能性があります。

また主演の竹内涼真さんは、冷静と熱狂の両方を併せ持つ「信念の男」を好演しており、このドラマが代表作の一つになってもおかしくない。

制作陣の大江達樹プロデューサーも、田村直己監督も、『ドクターX』シリーズを手掛けてきました。

エンタメを熟知する作り手たちであり、原作が韓国ドラマでも、しっかり「テレ朝・木曜ドラマ」のテーストに仕上げています。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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