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『初恋の悪魔』を深化させる、4人が抱えた「闇」

碓井広義メディア文化評論家
それぞれの「闇」を抱える4人(番組サイトより)

注目の「オリジナル脚本」

今期ドラマが始まる前、注目していた「オリジナル脚本」の作品があります。

1本は『家政婦のミタ』などの遊川和彦さんが脚本を手掛ける、『家庭教師のトラコ』(日本テレビ系)。

そしてもう1本が、『カルテット』(TBS系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ制作・フジテレビ系)などの坂元裕二さんによる、『初恋の悪魔』(日本テレビ系)です。

ユニークな「警察ドラマ」

この『初恋の悪魔』、始まってみると、実にユニークな警察ドラマになっていました。

何しろ、主人公たちは警察署に勤務しているにもかかわらず、事件の捜査も、容疑者の尋問も、犯人の逮捕もしない。いや、出来ないのです。

警察署に勤務はしていても、直接事件と関わることのないセクションの人たちだからです。

でも、彼らは想像力を駆使して考察し、「真相」にたどり着いてしまう。それが、このドラマの特色なのです。

仕事としてではなく、純粋に「真実」が知りたくて集まるメンバーは4人。

停職処分中の刑事・鈴之介(林遣都)、総務課の悠日(はるひ、仲野太賀)、会計課の琉夏(るか、柄本佑)、そして生活安全課の刑事・星砂(せすな、松岡茉優)ですが、署内の変り者ばかりです。

扱われる案件は、病院で起きた、事故か、自殺か、それとも殺人なのかが不明な少年の死であったり、スーパーでの万引き事件の裏側だったりします。

「自宅捜査会議」という設定

しかし、4人は立場上、正式な捜査活動などは許されません。

彼らは捜査資料を無断でコピーしたり、独自のルートで情報を集めたりして、勤務時間外に鈴之介の家に集合します。これが、通称「自宅捜査会議」です。

そこには、精巧に作られた事件現場の「模型」が置かれています。しかも、意識を集中させた4人は、その模型の現場に「入って行ける」のです。

いわゆる「バーチャル空間」ですが、そこには事件の関係者たちがいて、目の前で、まさに事件が起きていく。

彼らは、その過程を「目撃」することになります。当然、「真相」を知るわけです。

この「自宅捜査会議」は、毎回、ドラマの大きな見せ場です。坂元さんの脚本らしく、4人の「考察合戦」である異論・反論の応酬も楽しめます。

しかし、バーチャル空間に入り込んで、事件そのものに立ち会うという解決法は、ユニーク過ぎるほどの設定です。

視聴者の中には、どこか戸惑ったり、違和感を覚えている人も少なくないのではないでしょうか。

4人の「闇」がドラマを深化させる

とはいえ、坂元脚本なのです。何より、超が付くほどクセのあるキャラクターである、4人の「履歴」が気になります。

オリジナル脚本ですから、彼らの「過去」の詳細を知っているのは、作者だけなのです。

今後は、4人それぞれの過去の出来事と、内部に抱える「闇」の部分が、事件の考察・真相究明と並走する物語を駆動させ、ドラマ全体を深化させていくはずです。

6日の第4話もその片鱗が見えましたが、新たな章では予想を超える展開が待ち構えていそうです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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