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夏ドラマで目が離せない、異色の「新人」2人

碓井広義メディア文化評論家
主人公・新町亮太郎と仕事仲間&家族(番組サイトより)

異色の「新人」2人

夏ドラマで、目が離せない「新人」が、2人います。

いえ、「新人俳優」とかではありません。

以前とは全く違う職場で、初めての仕事に就いた新人。ドラマの登場人物のことです。

しかも、新人でありながら、2人とも既に若者ではない。というか、おじさん?

『オールドルーキー』の新町亮太郎(しんまち りょうたろう)

1人目は日曜劇場『オールドルーキー』(TBS系)の主人公、37歳の新町亮太郎(綾野剛)です。

元サッカー日本代表選手で、J3のチームに所属しながら代表への復帰を目指していました。

しかし、突然チームが解散となったことで、現役引退へと追い込まれます。

ハローワークで紹介された仕事にもトライしましたが、うまくいきませんでした。

そんな新町を拾ってくれたのが、スポーツマネジメントを専門とする「ビクトリー」。

有望なアスリートのために練習環境を整えたり、宣伝活動やCМ契約などをフォローする会社です。

慣れない仕事に戸惑いながらも、後輩のサッカー選手(第1話)や、スケートボードの天才少女(第2話)などと接していく新町。

そのおかげで、少しずつですが、マネジメントという仕事の面白さも分かり始めてきました。

何より、スポーツ選手の気持ちを理解できることが、この新人の強みです。

新町にとって最大の課題は、忘れられない過去の栄光と、捨てきれないサッカーへの未練でしょう。

それは一般社会とも重なります。かつての肩書や実績にこだわる人間ほど、転職先で浮いてしまう。周囲が困ってしまうことが多いそうです。

会社の倒産やリストラなどで、余儀なく転職した「新人」のケーススタディとして、新町の今後を注視していきたいと思います。

『ユニコーンに乗って』の小鳥智志(ことり さとし)

もう1人の新人が、『ユニコーンに乗って』(同)の小鳥智志(西島秀俊)です。

こちらは48歳の元銀行マン。本物のおじさんです。

ヒロインの成川佐奈(永野芽郁)がCEOを務める、教育系IT企業に転職してきました。

「(ネットを通じて)誰もが平等に学べる場を作りたい」という佐奈の理念に共感したからです。

新町と違って、小鳥は自らの意思で銀行を辞め、新たな環境に飛び込んできました。

とはいえ、若者が中心の会社では、即戦力とは言えない”おじさんの新人”はお荷物扱いになりそうです。

仕事以前のコミュニケーションも容易ではありません。

今後、両者の世代間ギャップや異なる価値観が、ドラマのストーリーに起伏を与えていくはずです。

米映画『マイ・インターン』を想起

若き女性経営者と、転職してきて彼女の部下となる中年男の物語ということで、思い出すのが、米映画『マイ・インターン』(2015年)です。

アン・ハサウェイが社長の通販会社に採用されたのが、ロバート・デ・ニーロでした。

当初は異質だったおじさんが、徐々に存在感を増し、ビジネスへの貢献と共に女性社長との信頼関係も生まれます。

単に年長者ということではなく、その人柄と経験が若手社員たちにとっても刺激となり、仕事仲間として認められるようになっていきました。

おそらく小鳥もまた、いい意味で周囲を変えていくのではないでしょうか。

「新人」を演じる、2人の俳優

どちらの新人も、キャスティングが見事にハマっている点は同じです。

元スター選手のプライドと情けなさを、バランスよく演じている綾野さん。

常識とユーモアを併せ持つ中年男を、ひょうひょうと演じている西島さん。

やはり、2人の「新人」から目が離せません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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