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『ハコヅメ』は今期の秀作。永野芽郁さんの回復を祈ります!

碓井広義メディア文化評論家
ヒロインは、ハコヅメ(交番勤務)の女性警察官(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)は、刑事ドラマならぬ“警官ドラマ”です。

ドラマや映画で主役となるのは刑事ばかり。ハコヅメ(交番勤務)の女性警察官のバディーものという点が珍しい。

2人のキャラクターと組み合わせの妙

一人は辞表提出寸前だったヘタレの新米警察官、川合麻依(永野芽郁)。

その指導係となったのは、交番に飛ばされてきた刑事課の元エース、藤聖子(戸田恵梨香)。

川合は公務員になりたかっただけの「意識低い系」でしたが、藤の仕事ぶりに刺激を受け、徐々に成長していきます。

たとえば藤は、路上に倒れていた不審な男(モロ師岡)の靴底を見て、空き巣と判断。

また自殺の通報を繰り返す若者にも本気で対応し、結果的に命を救います。

藤の「警察官の主な仕事はサンドバッグだよ」という覚悟と、「警察官だって人間なんだから」というおおらかさがいいですね。

2人の「キャラクター」と「組み合わせの妙」こそ、このドラマのキモです。

「朝ドラ」主演女優2人のW主演

28日に第4話が放送されました。

物語は、前回から続く、女子中高生をターゲットにした連続傷害事件。

川合が描いた、犯人の似顔絵がきっかけとなり、犯歴のある安田(北澤ひとし)が容疑者として浮上します。

ところが、被害者の女子高生・彩菜(畑芽育)は精神的に不安定で、自分の部屋に引きこもったままです。犯人に関する詳しい証言を得ることも出来ません。

川合は、自分が最初に行った、彩菜に対する事情聴取で、無神経な聞き方をしたことを悔やみ、深く反省します。

このあたりは、康三子(やすみこ)さんの原作漫画『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』の内容以上に、細かなエピソードを入れ込むことで、微妙な被害者心理や川合の戸惑いを描いていました。

原作漫画『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(筆者撮影)
原作漫画『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(筆者撮影)

やがて、彩菜にも川合の思いが伝わり、部屋から出てきて、証言します。

一方、捜査会議では、決め手に欠ける「安田犯人説」を捨てる方向へ。

しかし、藤は川合の似顔絵を信じて、張り込みを続行します。

ついに、安田が動き、塾帰りの女子高生を襲おうとして逮捕されます。

たとえ未熟な後輩であっても、藤の「相棒を信じる」という姿勢が、見る側の共感を呼びました。

仕事が出来るだけでなく、女子会と称して川合たちと飲んだりする、寂しがり屋の藤。

プロとしての厳しさと意外なお茶目が共存する彼女に、戸田さんが見事にハマっています。

また、ドジでヘタレだけど、天性の人の良さが武器となる川合。

永野さんも、程よいコメディータッチのこのドラマと、川合役がよく似合っています。

戸田さんが演じる藤の佇まいに、ふとした瞬間、NHK朝ドラ『スカーレット』のヒロイン、川原喜美子が重なることがあります。

そして、永野さんが演じる、愛すべき天然系とも言うべき川合の表情に、時折、朝ドラ『半分、青い。』のヒロイン、楡野鈴愛(にれのすずめ)を思い出すことがあります。

朝ドラ主演女優2人によるW主演。

飄々と楽しげに演じる先輩の胸を借りることで、後輩はのびのびと表現できる。その相乗効果は計り知れません。

永野芽郁さんの回復を祈る

ところが、このドラマが現在、ちょっと心配な状況にあります。

22日に、永野芽郁さんのコロナ感染が報じられたのですが、撮影スケジュールにも影響が出ているらしいのです。

実際、毎回の終わりに、次回の「予告」が置かれているのですが、第4話のラストでは、第5話の予告映像が流されませんでした。

今期の秀作ドラマの一つと言っていい『ハコヅメ』。永野さんの回復を祈るばかりです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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