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『アリバイ崩し承ります』浜辺美波の武器は「ギャップと落差」!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

浜辺美波主演の土曜ナイトドラマ『アリバイ崩し承ります』(テレビ朝日、土曜夜11時15分)も、いよいよ最終回を迎えます。

タイトルにあるように、物語の中心には「アリバイ」があります。事件の容疑者にとって、その犯行は可能か、それとも不可能なのか。鍵を握るのがアリバイであり、基本的には「無実であること」を裏付ける事実を指します。

ですから、真犯人が罪から逃れるためにアリバイを主張すれば、捜査陣はそれを崩さなくてはなりません。

19歳が演じる「異色探偵」

このドラマの最大の特色は、鉄壁の(と思われる)アリバイを崩していく探偵役が、ホームズ風でもポアロ風でも金田一風でもなく、時計屋さんを営む、若い女性であることです。

美谷時乃(浜辺)は、亡き祖父(森本レオ)から古い時計店を受け継ぎました。しかも、時計修理の技術だけでなく、「アリバイ崩し」の能力も継承しています。この設定が面白い。

原作は、大山誠一郎さんの同名小説。連作短編という形で複数のエピソードが並んでいるのですが、いずれも謎解きやトリック、名探偵の活躍が軸になった、堂々の本格ミステリーです。

ドラマでは、原作に2つの大きな変更を加えました。1つは、時乃にアリバイ崩しを依頼するのが新米の若手刑事ではなく、現場経験の薄い管理官(安田顕)であることです。

毎回、安田さんが時乃から謎解きを聞くシーンがあるのですが、あのギョロっとした目で「うーん、そうだったのか」と納得する様子が、いつも可笑しい。適役です。

2つ目が、原作では刑事の話を聞くだけで推理していた時乃を、現場に行けるようにしたことでしょう。

被害者の飲食物を利用した犯行時間のかく乱。音楽をダウンロードするタイミングによるアリバイ作り。複数のピストルで生み出した時間差。そうそう、山梨のペンションで行われた殺人では、足跡を使って捜査を混乱させていました。しかし、時乃の目と頭脳は欺けません。

浜辺さんは、いつも明るく楽しそうにアリバイ崩しに挑む、時乃を好演しています。その武器となっているのは、大好きなお風呂でくつろぐ「かわいいお嬢さん」と、難攻不落のアリバイに挑む「異色探偵」とのギャップであり、落差です。

しかもこの武器、昨日今日のものではないのです。

16歳で演じた「女子高生雀士」

2016年の年末に放送された『咲―Saki―』(毎日放送)は、小林立さんの麻雀漫画が原作の短期連続ドラマでした。

主人公の宮永咲(浜辺美波)は、一見ごく普通のおとなしい女子高生ですが、麻雀では誰にも負けない天才的な勝負勘と強運を発揮する女の子です。高校の麻雀部に入り、それぞれ個性的な仲間たちと県大会、そして全国を目指すことになります。

ひとつ目の見どころは、「四暗刻(スーアンコウ)」「嶺上開花(リンシャンカイホウ)」といった役が飛び出す、麻雀の対戦場面です。麻雀を知っている人はもちろん、知らない人でもつい見入ってしまう緊迫感と高揚感がありました。しかも雀士はセーラー服の女子高生。見る側は、このギャップにハマるんですね。

次に見るべき点は、麻雀という勝負を描くこのドラマが、出演者たちにとっても「勝負の場」になっていたことです。

浜辺さんは、「東宝シンデレラ」ニュージェネレーション賞の受賞者。麻雀部員には、「SUPER☆GiRLS」のメンバーだった浅川梨奈さん、「私立恵比寿中学」にいた廣田あいかさん、そして元「ニコラ」専属モデルの古畑星夏さんなどがいました。当時は皆、ライバルです。

また他校の麻雀部にも、人気モデルの武田玲奈さん、バラエティーでも見るようになった山地まりさん、AKB48の元メンバーである永尾まりやさんなどが控えていました。にぎやかだ。

女子高生たちが雀卓を囲む、異色の麻雀ドラマだっただけでなく、4校20人の女子たちが競い合う「動くグラビア大会」ともいうべき、華やかなサバイバルゲームでもありました。

この『咲―Saki―』から3年。『アリバイ崩し承ります』のヒロインを演じる、女優・浜辺美波の「ギャップと落差」という武器には、ますます磨きがかかっています。最終回は、その集大成になるかもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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