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「ジャニー喜多川」とは何者だったのか!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

ジャニー喜多川さんが亡くなりました。たくさんの記事が一挙に発信され、それらを読んでいると、この国の芸能界にとって、いかに大きな存在だったのか、再認識させられます。

あらためて、「ジャニー喜多川」とは何者だったのだろうと思い、とりあえず2冊の本を読み直してみました。

「教師」としてのジャニー喜多川

一冊目は、批評家・矢野利裕さんの『ジャニーズと日本』(講談社現代新書)です。この本で最も興味深いのは、ジャニーズ事務所の創設者である、ジャニー喜多川さんの人物像です。

まず、終戦後のアメリカで学生時代を過ごした、「日系二世のアメリカ人」であること。これはジャニーさんについて考える際の、いわば原点と言えるでしょう。

次に、ジャニーさんの根底にあるのは、アメリカ文化やアメリカの価値観を、日本人に「教える」というスタンスであり姿勢です。日本人は「生徒」だったのです。

そんなジャニーさんにとって、所属するアイドルたちもまた「生徒」です。彼らは、「教師」としてのジャニーさんが求める姿を、ストレートに体現化することが必然となります。

ただし、そこにはアイドル自身の「自我」はいらないんですね。なぜなら、「自我や自己を遠ざけたところにこそ、(中略)ジャニーズのアイドル性や華やかさは見出される」からです。

たとえばSMAP。活動を始めた90年代初頭、テレビの歌番組は激減し、CDもかつてほどの売れ行きが望めなくなっていました。

彼らは飯島三智マネージャーの戦略もあり、それまでのアイドルが見向きもしなかった、お笑いの世界やバラエティに参入することで活路を見出していきます。しかし、それはジャニーさんが目指す、「ショーアップされたスター性」からの逸脱でもあったのです。

「義理と人情」とジャニー喜多川

「ジャニー喜多川」について考えるための、もう一冊。ポピュラー文化に詳しい、松谷創一郎さんの『SMAPはなぜ解散したのか』(SB新書)です。

松谷さんは、ジャニーさんが率いていたジャニーズ事務所について、会社の「存在感の大きさ」と、「義理と人情の社風」とのギャップを指摘します。

所属タレントや社員との一種異様な関係も、またマスコミ操縦や世論誘導も、それが前時代的で硬直化した振る舞いだという自覚を持たない(持てない)ことの表れだとしています。そしてマスコミ、特にテレビ局の忖度(そんたく)と保身がそれを助長したのだと。

ジャニーズ事務所が持つ、骨がらみの体質である“義理と人情”。そして飯島三智マネージャーに対して、メンバーが抱えていた“義理と人情”。2つの“義理と人情”の衝突の結果がSMAPの解散だった。そう松谷さんは言うのです。読んでいて、十分に納得感のある考察でした。

通信社の取材に答えて・・・

ジャニーさんの訃報が伝えられた夜、地方紙などに記事を配信する、通信社からの取材を受けました。

思うところを、あれこれ、お話しさせていただきましたが、最後に、記者さんには以下のようなことをお伝えしました。

ジャニー喜多川さんは、アメリカ型エンターテインメントの「伝道師」として、日本にないものを作り出し、女性アイドル中心の芸能界に、「男性アイドルグループ」という枠組みを創出しました。

また、ファンとアイドルを「ファミリー」という形でくくり、そこに価値を生み出すビジネスモデルを確立したのもジャニーさんです。

自身の精神を伝えるため、最後まで現場に足を運ぶ、徹底した「現場主義」を貫きました。育ててもらったタレントはもちろん、日本の芸能界は、唯一無二の存在を失ったのだと思います。

ジャニー喜多川さん 享年87。

合掌。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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