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雨の週末、活字で楽しむ「昭和のテレビ」

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

今週末も雨模様。今年上半期に出版された本の中から、「昭和のテレビ」が活字で楽しめる何冊かを選んで、紹介してみたいと思います。

小松政夫『ひょうげもん―コメディアン奮戦!』(さくら舎)

今年77歳になる小松政夫さんが、植木等さんの付き人兼運転手として芸能界入りしたのは55年前のことでした。やがて人気者となり、「電線音頭」や「しらけ鳥音頭」が大ヒットしていきます。自伝的回想録である本書は、テレビ草創期から現在までを内側から見た、異色の昭和・平成芸能史でもあります。

白石雅彦『「怪奇大作戦」の挑戦』(双葉社)

1960年代後半、『ウルトラQ』に始まる円谷プロの特撮シリーズが人気を集めました。思えば、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の後に放送された、『怪奇大作戦』は異色作でした。何しろ怪獣も、宇宙人も登場しないんですから。しかも実相寺昭雄監督『京都買います』など名作が多い。本書は、伝説の特撮ドラマの深層に迫る1冊です。

久米 明『僕の戦後舞台・テレビ・映画史70年』(河出書房新社)

俳優・声優である久米明さんは、94歳の今も『鶴瓶の家族に乾杯』などのナレーターを務める、堂々の現役です。旧制麻布中学、東京商科大学(現・一橋大学)、そして学徒動員。役者人生は70年を超えています。テレビ草創期から、黒澤明監督や福田恆存についてまで、貴重な証言のオンパレードです。

こうたきてつや 『昭和ドラマ史』(映人社)

日大名誉教授のこうたきてつや(上滝徹也)さんは、ドラマ史研究の第一人者。本書に並ぶ昭和の作品群の中でも、“ドラマの黄金時代”といえる70年代の記述が熱い。向田邦子『寺内貫太郎一家』、倉本聰『前略おふくろ様』、そして山田太一『岸辺のアルバム』など、まさに脚本家の黄金時代でもあったのです。

井上一夫 『伝える人、永六輔 「大往生」の日々』(集英社)

井上一夫さんは、元「岩波新書」編集者です。あの大ベストセラー『大往生』に始まる、永六輔さんとの日々を振り返りました。約10年にわたる二人三脚で知った独特の発想や仕事の仕方、さらに生き方までが明かされます。「積み重ねでなく閃(ひらめ)き」という方法の中に、永さんの真髄が見えてくるようです。

中川右介『サブカル勃興史』(角川新書)

70年代サブカルチャーの考察です。70年の『ドラえもん』を皮切りに、71年『仮面ライダー』、74年『宇宙戦艦ヤマト』、そして79年『機動戦士ガンダム』などが続々と登場します。注目すべきは、これらの作品が半世紀近くを経た今も“健在”であることでしょう。その秘密とは?

小路幸也『テレビ探偵』(角川書店)

この小説の舞台は昭和40年代。主人公は、音楽バンド&コントグループのボーヤです。土曜夜8時に生放送される公開バラエティで、まさかの殺人未遂事件が発生します。誰が、何のために? 当時の超人気番組(♪ババンバ、バンバンバン!)をモデルにして、テレビが熱かった時代の芸能界を活写する連作ミステリーです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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