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「看板枠」の春ドラマ、月9『ラジエーションハウス』を振り返る

碓井広義メディア文化評論家
UHB みちゅバチ(筆者撮影)

各局にある、ドラマの「看板枠」。今回はフジテレビ「月9」の春ドラマ『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』を振り返ってみます。

「医療ドラマ」の新機軸

これまで、さまざまな作品が作られてきた、医療ドラマ。もうネタは出尽くしたかに見えたのですが、窪田正孝主演『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』は、ちょっとした新機軸の登場でした。なにしろ主人公の五十嵐唯織(窪田)は、医療ドラマとしては珍しい「放射線技師」です。

患者の写真を見て診断を下すのは、あくまでも放射線科医の領分ですよね。医師の中には「技師のくせに」とか、「技師が口をはさむな!」などと、技師を見下した態度の者もいるわけです。

確かに技師たちは縁の下の力持ち的な存在ですが、実は彼らこそが医療の現場を支えているというのが、このドラマのメインテーマでした。

大きな見どころの一つは、初の「月9主演」となった窪田さんです。一昨年のNHK土曜ドラマ『4号警備』では、元警察官で警備員という「鬱屈を抱えた青年」を、とても巧みに演じていました。

また昨年の『アンナチュラル』(TBS系)では、不自然死を解明する活動と週刊誌に情報を流すスパイの役割との間で揺れ動く「悩める医学生」を好演していました。

「座長・窪田正孝」の進化

今回は、さらに進化した窪田さんが見られたと思います。医師免許を持っていることを隠しながら、技師という仕事と真摯に向き合う五十嵐が、一匹狼的な存在から、チームの仲間と一緒に医療に取り組む姿勢へと変わっていく過程が見事でした。

しかも自分が変わるだけでなく、その変化は同僚である羽黒たまき(山口紗弥加)や、広瀬裕乃(広瀬アリス)たちにも良い影響を与えていきます。さらに、初恋の相手でもある放射線科医、甘春杏(本田翼)との、なかなか縮まらない関係も微笑ましかった。

ひょうひょうとしていながら、大事な場面で能力を発揮する五十嵐は、「座長・窪田正孝」の当たり役だったと言えるでしょう。シリーズ化の可能性も高いと思います。

7月からの月9ドラマ『監察医 朝顔』

ところで、次の「月9」は、上野樹里主演『監察医 朝顔』です。うーん、フジは上野さんが好きですね(笑)。

まず、監察医って、あまり新鮮じゃないのが気になります。それに共演の山口智子さんと石田ひかりさんというキャスティングも、ご本人たちには申し訳ないのですが、やはり新鮮とは言えず、また制作側はともかく、視聴者にとっての「ありがた感」がどれだけあるのか。ちょっと、いや、かなり心配です。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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