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杉咲花『ハケン占い師アタル』は、チコちゃんならぬ、アタルに叱られる快感!?

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

朝ドラ『とと姉ちゃん』(2016年)で、ヒロイン・小橋常子(高畑充希)の明るい妹、美子を演じていた杉咲花さん。昨年は、『花のち晴れ~花男Next Season~』で連ドラ初主演を果たしました。

他人の内面を見通すヒロイン

今期、杉咲さんは、木曜ドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)のヒロイン、的場中(まとば・あたる)です。イベント会社で働く派遣社員で、いわゆる雑用を頼まれても、「はい、喜んで!」と明るく対応する、一見普通の女子です。

そして、その実態は・・・なんと他人の内面を見通す特殊能力の持ち主。そんなアタルが、同じ部署で働く面々が抱えた様々な悩みを密かに解決していくのが、このドラマです。

自分に自信のない神田和実(志田未来)には小学生時代の光景を見せます。当時、級友たちに「くさい」と言われたことがトラウマとなっている和実ですが、本当は「笑顔が嘘くさい」という意味でした。

他人に嫌われないことに汲々としている彼女に、アタルは「自分に対する愛が欠けている。もっと自分を大切にしようよ!」と説きます。

また、コネ入社の坊ちゃん社員・目黒円(間宮祥太朗)には、最愛の母を失ってつらかったのは父親も同じだと教えます。そして「少しは大人になれよ!」と叱咤しました。

いつも無愛想で、ピリピリしている田畑友代(野波麻帆)。志望と違う仕事に就いたこと、無能に見える同僚や上司、働かない父や弟など、彼女は不満だらけです。心の中では、「なぜ私は幸せになれないの!」と叫んでいました。

アタルが田畑に見せたのは、高校時代に亡くなった、病床の母でした。その上で、言います。

「幸せなんて、周りと比べても意味はない」

「世の中、不公平なのが当たり前。不公平な世界で生きて行くしかない」

「あなたは、自分が不幸だ、不公平だと言いながら、いいことが起きるのを待っているだけ」

「幸せは待っているものじゃなくて、自分で創るものなんだよ!」

最終的に田畑は、「いい仕事といい仲間」に恵まれていることに気づくのです。

アタル流「人生のヒント」 

アタルがやっているのは、「占い」というより、一種の「人生相談」です。アタルは、「占い師」というより特殊能力を生かした「カウンセラー」のように見えます。

悩みを聞いた後、アタルから飛び出すのは、結構辛口で厳しい言葉です。「アドバイスを受ける」というより、「叱られている」と言ったほうがいい。

いや、実はみんな、誰かに叱られたいのかもしれません。叱られる快感。チコちゃんならぬ、「アタルに叱られる!」です。

ドラマの登場人物たちの「悩み」には何かしら普遍性があり、見ている側も、アタルのアドバイスやお叱りの言葉を、自分に引き寄せて聞くことができます。

このアタル流「人生のヒント」を支えているのは、遊川和彦さんのオリジナル脚本でしょう。天海祐希主演の『女王の教室』や松嶋菜々子主演の『家政婦のミタ』を手掛けてきた、熟練の技が光っています。

ドラマは残すところ、あと数回となりました。占い師である母・キズナ(若村麻由美)との関係を含め、アタル自身が抱えている本当の葛藤に、どう決着がつけられるのか。遊川さんと杉咲さんが目指すゴールが楽しみです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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