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「苦肉の変則技」が効いた弁護士ドラマ『リーガルV』

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

米倉涼子主演『リーガルV~元弁護士・小鳥遊(たかなし)翔子~』(テレビ朝日系)が始まった時、ドクターXこと大門未知子(米倉)が、ちゃっかり副業で弁護士事務所を開いたのかと思いました。おいおい、晶さん(岸部一徳)の許可は得ているのか、って。

もしかしたら、さすがの天才外科医も、手術続きで疲れたのでしょうか。それとも同じ役をずっと続けて、イメージが固まることを主演女優さんが嫌ったか。多分、こっちですね(笑)。

一見矛盾した異色の設定

そこで制作側は提案するわけです。「今度は医者じゃなくて弁護士ですよ。ただし手術室ならぬ、法廷に立つ必要はありません。なぜなら、ヒロインの小鳥遊翔子(米倉)は弁護士資格をはく奪されちゃってるので。ドラマの座長でさえいてくれたらOKですから」とかナントカ。

弁護士ドラマの主人公が、何と弁護士として活躍できない。この一見矛盾した異色の設定こそが、『リーガルV』の魅力です。

で、どうするかと思ったら、本人は「管理人」という立場で、法律事務所のメンバーを集めました。それもクセのある人物ばかりです。

所長の京極(高橋英樹)は法学部教授ではありますが、法廷の経験はありませんでした。大鷹(勝村政信)は、大失敗をして検事を辞めたヤメ検弁護士です。そして若手の青島(林遣都)は、まだまだ半人前の駆け出しにすぎません。

パラリーガルも、現役ホスト(三浦翔平)や元ストーカー(荒川良々)といった問題児たちですが、小鳥遊は彼らをあの手この手でコキ使って、じわじわと事実を洗い直していきます。

1人の天才ではなく、「チーム小鳥遊」

そう。このドラマは、「チーム小鳥遊」とでも呼ぶべき集団の活躍を見せる、群像劇になっているのです。そこには、スーパーヒーロー型の『ドクターX』や、バディ型の『相棒』と、しっかり差別化するという狙いも織り込まれています。

また、大門の神技的外科手術と組織内の権力闘争が見せ場だった『ドクターX』と異なり、『リーガルV』では訴えた側、訴えられた側、それぞれの人間模様がきちんと描かれる。まさに人間ドラマとしての見応えがあるのです。

たとえば第3話では、裁判の行方を左右する重要証人、被告の恩師(岡本信人)の偽証を見事に覆しました。小鳥遊が、夫の浮気に気がついていた妻(原日出子)の応援を得たのです。

そして第4話では、亡くなった資産家(竜雷太)の莫大な遺産をめぐって、死の直前に入籍した若い女(島崎遥香、好演)と一人息子(袴田吉彦)が対立します。遺産目当てと思われた、ぱるるの駆け込み結婚の背後には、なかなか意外な真相がありました。

ふだんは、なーんもしないように見えるのですが、大事な局面では、直感と独断でしっかり存在感を示すヒロイン。小鳥遊はドクターXの不在を埋める、“もう一人の大門”と言っていいかもしれません。

有効な「鉄道オタク」

そういえば、小鳥遊が「鉄道オタク」っていう設定も面白いですね。本来、「管理人」である小鳥遊が調査に赴くのは、ちょっと違和感があります。

そこを回避して彼女を外に連れ出し、見せ場を作るためには、列車に乗って駅弁を食べることに情熱を燃やすというキャラクターが最適だったのでしょう。それに、事務所と法廷ばかりじゃ、息が詰まります。短いカットとはいえ、地方の美しい風景が挿入されるのは悪くありません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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