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「全身演技」で新たな夫婦像・親子像に挑む、綾瀬はるか『義母と娘のブルース』

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

新たな「夫婦像」を見せた第1章

今週7日(火)に放送された『義母と娘のブルース』第5話で、このドラマの第1章が終了しました。いえ、区切りのことは、あまり意識していなかったのですが、次週予告で「第2章スタート!!」とやっていたので、「ああ、そうなのか」と思った次第です。

ここまでを、ちょっと振り返ってみましょう。話の始まりは約10年前です。岩木亜希子(綾瀬はるか)は、業界トップの金属会社で、やり手の部長でした。

ところが突然、ライバル会社の宮本良一(竹野内豊)と結婚してしまいます。40代半ばの良一とは年齢が離れているだけでなく、彼には、みゆき(横溝菜帆)という8歳の娘までいました。このドラマは成長したみゆき(上白石萌歌、今週まではナレーションのみ)が語る、「義母」と「家族」をめぐる物語です。

最大の見どころは、やはり綾瀬さんが演じる亜希子のキャラクターと予想外の行動でしょう。「キャリアウーマン」なる言葉自体がすでに懐かしいのですが、亜希子には「バリバリのキャリアウーマン」という当時の表現がよく似合います。

何しろ初めてみゆきに会った時も、パッと名刺を差し出した人です。結婚後も、ここぞという勝負では紺のスーツと銀色のアタッシェケースで出撃する。家庭も含め、何でも「会社」や「仕事」に見立ててしまう、ユニークな女性なんですね。

たとえば7月24日の第3話は、運動会の運営を通じてPTAのあり方を問うというものでした。PTAに君臨する会長の矢野(奥貫薫)に向かって、自分ひとりで運動会を成立させると宣言し、孤軍奮闘する亜希子。途中からは保護者だけでなく生徒たちも協力して、運動会は無事に終えることができました。

この回で亜希子は、長いものには巻かれ、強いヤツには逆らわない親の背中を、「大事な一人娘に見せたくない」と言い切ります。痛快でした。また同時に、キャリアウーマンを目指しながら果たせなかった矢野を、そのトラウマから救ったのです。このあたりも含め、今回のドラマ化では森下佳子さんの脚本が冴えています。

新たな「親子(母子)像」を見せる第2章へ

放送開始直後は、ユーモアまじりのホームドラマのように思えたのですが、そうではありませんでした。新たな家族像、夫婦像、そして親子(母子)像を探る、かなりアグレッシブなドラマだとわかってきたのです。

その背景には、良一が亜希子に結婚を申し込んだ理由、そして亜希子が良一の唐突なプロポーズを受け入れた理由があります。

第4話の回想の中で、それが明かされました。がんのために余命がわずかだと判断した良一が、自分が世を去った後、娘のみゆきを託せる女性を求めたのです。亜希子はその仕事ぶりから、良一が知る中で「最もしっかりしていて、頼りになる女性」でした。

また、この乱暴なお願いに亜希子が応じたのは、当時「人恋しかったから」という実にシンプルな理由です。そして一緒に暮らす中で、2人が到達した夫婦像が「二人三脚ではなく、リレー」というものでした。娘というバトンを引き受けて走る、リレーだったのです。

来週からの第2章は10年後、つまり時制としては、ほぼ現在ですね。どうやら良一は亡くなっているようです。18歳になったみゆき(上白石萌歌)は、多分、ちょっと変わった女子高生でしょうし、亜希子という“元キャリアウーマンの義母”もますます際立ったものになりそうです。

そういえば、亜希子について、良一がこんなことを言っていました。「(ことを起こした亜希子を)見ていたくなっちゃうんですよね。このひと、このあと、どうするのかなって」。

それはまさに、このドラマを見ている多くの視聴者の気持ちでもあります。

亜希子が行動を起こす。それは10年後であっても、普通の女性、普通の母親とは、かなり違ったものだったりするはずで、何事にも「全力投球」の亜希子と同様、綾瀬さんの「全身演技」が見ものです。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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