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NHK朝ドラ『半分、青い。』のテイクオフ(離陸)は成功だったのか!?

碓井広義メディア文化評論家
(ペイレスイメージズ/アフロ)

4月2日に始まったNHK朝ドラ『半分、青い。』が、2週目まで放送されました。来週からは、いよいよ主演の永野芽郁(ながの・めい)さんも本格的に登場してきます。ということで、今回はこのドラマの序章を振り返ってみたいと思います。果たして、テイクオフ(離陸)は成功だったのか!?

『ひよっこ』との“ゆるやかな連続性”

ヒロインの誕生以前、母親の胎内にいた時点から描き始めるという、なかなか凝った作りの導入部でした。主人公の楡野鈴愛(にれの・すずめ)が生まれたのは、1971(昭和46)年7月7日。岐阜県東濃地方の町で食堂を営む楡野宇太郎(滝藤賢一)と晴(はる/松雪泰子)夫妻の長女です。

この両親と71年生まれの子どもという設定ですが、思い浮かべたのは『ひよっこ』(17年)のヒロイン、すでに懐かしい谷田部みね子(有村架純)でした。

1964(昭和39)年の「東京オリンピック」の時に高校3年生(18歳)だった、みね子。物語の最後で、すずふり亭の秀俊君と結婚しました。それが68(昭和43)年のことでしたから、71年には25歳になっています。つまり鈴愛を産んだ晴と、みね子はほぼ同世代なんですよね。

『半分、青い。』で描かれる時代は、『ひよっこ』の“その後”に当たっており、乱暴なことを言えば、鈴愛は、みね子が産んでいてもおかしくない(笑)。少なくとも、「みね子の子どもたち世代」が今回のヒロインということになります。好評だった『ひよっこ』との“ゆるやかな連続性”は、設定として上手いと思います。

加えて、『あまちゃん』(13年)で話題となった「80年代文化」も、松田聖子さんの歌から温水洗浄便座まで、様々なアイテムを登場させて楽しませてくれています。このあたりも、成功例を踏まえた目配りが見事ですね。

朝ドラ史上初の「ハンディキャップを持つヒロイン」

主人公の楡野鈴愛(少女時代の矢崎由紗さん、好演)は小学3年生の時、片方の耳が聴こえなくなってしまいます。恐らく、朝ドラ史上初の「ハンディキャップを持つヒロイン」でしょう。開始前、物語の中で、そのことがどう描かれていくのかが気になっていました。

2週目までを見て、基本的に「それは障害ではなく個性なんだ」という姿勢であることが伝わってきました。ちょっと嬉しくなりました。鈴愛は「障害のある女の子」ではなく、とても「個性的でユニークな女の子」です。

4月12日放送の第10回。鈴愛は自分の聴こえない耳について、「左耳、おもしろい。小人(こびと)が歌って、踊ってる」と言っていました。また、ずっと続いている耳鳴りは「海の音。潮騒」だと。この感性が素晴らしい。

また下校の途中、強い向かい風に吹かれながら、「うわー、風の音が体の中から聞こえるみたい。私、風の真ん中にいる!」。

第12回(4月14日放送)では、「耳の中で小人が踊る」と言う鈴愛に、母親の晴は「鈴愛の左側(の耳)、楽しいねえ」。

そして雨の翌朝、登校しようとして雨傘を広げた鈴愛が、「面白い。半分だけ雨降っとる。(聞こえる)右だけ雨降っとる」。すると晴は「鈴愛の左側はいつだって晴れやね」と返します。いいシーンでした。

人生は「解釈」で出来ている!?

鈴愛は左耳の聴力を失いました。鈴愛だけにしか分からない耳鳴りが続いています。それを、「不快なノイズ」と感じるのか。それとも、「小人が踊っている」と面白がるのか。この差は大きいですね。

「小人が踊っている」は、何とも秀逸な「喩(たと)え」です。耳鳴りを小人に「見立て」ることで、自分が持つハンディキャップの「解釈」が変わってくるからです。思えば、人生のどんな出来事も、自分の解釈次第なのかもしれません。

小人は一種の「擬人化」ですが、子どもの世界というものは基本的に自分が中心なので、擬人的な理解を日常的に行います。小人もまた、子どもにとっては自然な「見立て」と言えるでしょう。

もちろん、これは鈴愛というより、脚本の北川江吏子さんの優れた表現力のおかげです。その意味では、タイトルの「半分、青い。」こそ、最高の喩えじゃないかと思うのです。

このドラマには楽しい「喩え」がいくつも出てきます。鈴愛が母親の晴と口げんかをした際、「怒ると(『マグマ大使』に出てくる)ゴアみたいだ」なんて言ってました。

また鈴愛と同じ日に生まれた律(少年時代の高村佳偉人くん、好演)の母、萩尾和子(はぎお・わこ/原田知世)は、息子から「時々、説教臭くなる」と言われるそうです。自分のことを「出来損ないの金八先生みたい」だと、これまたびっくりの喩えで晴に話していました。しかも武田鉄矢の「このバカちんが!」の物まね付きで(笑)。

序章を盛り上げた2人の女優

そうそう、この「和子(わこ)」という名前ですが、普通に読めば「かずこ」ですよね。原田知世さんの代表作といえば映画『時をかける少女』(83年、監督:大林宣彦)であり、演じたヒロインの名が「芳山和子(よしやま・かずこ)」でした。こういう細かなオマージュは見ていて楽しいし、これからもたくさん出てくるのではないかと思います。

晴と和子。松雪さんと原田さん。同時出産から子供を巡ってやり取りするシーンなど、これまでの朝ドラにないほど印象深く母親2人を描いているのを感じます。

2010年に日テレ系で放映された『Mother』では、松雪さんが若い世代の母親像を見事に演じていました。そのキビキビした感じに対して、ホンワカした雰囲気の原田さん。お互いが、個性そのままで演じているのがいいですね。ドラマの序章を盛り上げてくれました。

さて、2週目のラストで顔を見せた、高校3年生の鈴愛(永野芽郁)。そして同じ高校にいるらしい律(佐藤健)。この2人を軸に、3週目からはどんな青春物語が展開されるのか、大いに期待したいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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