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今年もまた、アナザーウェイとオリジナリティを押し進めた「テレビ東京」

碓井広義メディア文化評論家
看板番組のひとつ、「出没!アド街ック天国」(番組サイトより)

先日、週刊誌から「テレビ東京の人気」に関する取材を受けました。今年6月、テレビ東京は「週間平均視聴率(5月29日~6月4日)」でテレビ朝日やフジテレビを抜き去り、民放3位となりました。1964年の開局以来、初の快挙です。それに最近は、ドキュメントバラエティー「池の水ぜんぶ抜く」が話題になったりしました。週刊誌には、お話した一部が掲載されていましたが、あらためて、そこに至る背景を探ってみます。

それは「TVチャンピオン」から始まった!?

かつて、テレビ東京のイメージといえば、良くも悪くも「経済のテレ東」でした。日本経済新聞との関係もあり、「ワールドビジネスサテライト」に代表される、経済情報に特化した番組がウリの局だったんですね。というか、それしかなかったと言っていい。

変化が起きたのは、92年に始まった「TVチャンピオン」(2006年9月終了)のヒットからです。さまざまなジャンルで、“素人のすごい人”を競わせるバラエティ番組でした。

他局と比べて、予算にも人員にも限りがあり、大物タレントの起用や豪華番組の制作はままならないのがテレビ東京です。他局と似たような企画を打ち出しても、結果的には貧弱な“縮小コピー”になってしまいます。

「それならば」という苦肉の策から生まれた、素人参加番組が注目を集めたわけです。「TVチャンピオン」の成功によって、他局とは違う別の道、“アナザーウェイ”を行くことを決意したのだと思います。

バラエティの「オリジナル商品」開発

制作費でいえば、テレ東は他局の半分にも満たない低予算である場合が多い。たとえば、番組司会に2人置こうと考えたとき、他局だったら人気MCと話題の女性タレントを用意できるのに対して、テレ東は局のアナウンサーとあまり名前の知られていない若手芸人しか呼べないということです。

そこでテレ東は、他局のマネではない、バラエティの“オリジナル商品”を開発し、世に送り出していくことになります。1994年「開運!なんでも鑑定団」、95年「出没!アド街ック天国」などです。今や局の看板となった両番組ですが、「よそでは見られない番組」を作ろうとする挑戦は、その後も続いています。

2007年からの「モヤモヤさまぁ~ず」(現在はタイトルに2が付いています)はもちろん、近年だと太川陽介さんや蛭子能収さんによる「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」。来日した外国人に密着する「YOUは何しに日本へ?」。さらに海外で活躍する日本人を紹介する「世界ナゼそこに?日本人」等々。これらに共通するのは、独特の“ユルさ”であり、気楽に見られる“人間ドキュメント”になっていることでしょう。

経済情報番組の新機軸、そしてアニメ

こうしたバラエティの流れに加えて、2000年代に入ると、新機軸の経済情報番組も投入してきました。02年「ガイアの夜明け」、そして06年の「カンブリア宮殿」などです。両番組の新しさと価値は、それまで主にビジネスマンが対象だった経済情報番組を、人間を軸とした視点と見せ方の工夫によって、家族で楽しめる“教養エンターテインメント”に仕立て上げたことです。

さらにバラエティ系でも、07年から「和風総本家」(テレビ大阪の制作)を開始。「日本の職人」「匠の技」という“鉱脈”を発見し、大事に育てながら現在に至っています。

そして、テレビ東京の独壇場といえばアニメですよね。他局のアニメ枠が減少する中、テレ東には、「妖怪ウォッチ」、「ポケットモンスター サン&ムーン」、「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ 20thリマスター」、「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」など、アニメファンが嬉しいタイトルが並んでいます。そこにいるファンに応えようとする姿勢も、テレビ東京の特色の一つです。

“アナザーウェイ”と“オリジナリティ”のドラマ

アニメだけでなく、温泉地やちょっとした観光地を訪ねる旅番組も根強い人気がありますが、注目したいのはドラマです。実はここでも、“アナザーウェイ”と“オリジナリティ”が武器になっています。その象徴が、「深夜ドラマ」というジャンル全体を牽引する、「ドラマ24」という枠です。

これまで、05年の第1作「嬢王」に始まり、「湯けむりスナイパー」「モテキ」「勇者ヨシヒコと魔王の城」「まほろ駅前番外地」「みんな!エスパーだよ!」といった話題作を次から次へと生み出してきました。深夜の別枠でヒットした「孤独のグルメ」も15年秋からこの枠に編入されたこともあり、ブランド価値がさらに高まっているのです。

キモはゴールデンタイムのドラマのように、子どもから大人まで広範囲の視聴者を狙っていないこと。一般向けとはいえないマニアックな内容、冒険的なキャスティング、とんがった演出などにチャレンジしており、これがドラマ愛好者にはたまりません。

「湯けむりスナイパー」の遠藤憲一、「孤独のグルメ」の松重豊、「モテキ」の森山未來など、それ以前には“主役”として起用されることがあまりなかった俳優たちが、ここで堂々の座長芝居を見せてきました。

ドラマの中身と役者が完全にマッチしているのが特徴ですが、これは他局のゴールデンタイムのドラマが、内容より先に有名俳優・タレントの主演が決まっているような作られ方をするのと対極にあると言っていいでしょう。

また、「モテキ」の大根仁、「冷たい熱帯魚」の園子温、「変体仮面」の福田雄一など、一癖も二癖もある監督たちの起用も実に魅力的でした。

さらに近年のテレビ東京のドラマが、視聴者としての「中高年層」を大切にしていることにも注目です。

「金曜8時のドラマ」という枠を設け、「三匹のおっさん」「僕らプレイボーイズ 熟年探偵社」「釣りバカ日誌〜新入社員 浜崎伝助〜」など、中高年向けの作品を連打してきました。ベテラン俳優という貴重な資源を活用した試みとして実に面白い。今期の沢村一樹主演「ユニバーサル広告社」も、なかなかの秀作でした。

報道もまた「テレビ東京流」

1991年の湾岸戦争時に、他局がそろって報道番組を流す中、テレ東がアニメ「楽しいムーミン一家」、「三つ目がとおる」を放送し、18%近い高視聴率を叩き出したことは、今や伝説です。何が起こっても通常の番組を続ける頑固さ(笑)。いつもの番組を楽しみに待っている視聴者を裏切らないのがテレ東の考え方なのです。

そんな報道のジャンルでも、近年のテレビ東京は独自色を打ち出しています。その最たるものが、池上彰さんを起用しての選挙特番でしょう。

若者を中心に、日常的には普通の人たちの政治への関心はあまり高くありません。だからこそ選挙にはある種のお祭りとしての役割があり、政治に関心を持ってもらえるチャンスです。特に投票率が低い若者層にアピールしたいなら、選挙報道にはそれができる可能性がある。しかし、過去の選挙報道は基本的に「横並び」「金太郎あめ」といった印象がぬぐえませんでした。

選挙特番での池上さんは、客観的に情報を把握し、それを分かりやすく伝えてくれます。また、相手が大物政治家でも臆することなく、国民が本当に知りたいと思うことを引き出してくれる。池上さんの登場によって、いい意味で選挙報道が面白くなり、またテレビ東京の選挙特番は存在感を持ちました。今後は報道番組全体の強化を望みたいです。

「テレビ的」なるものへの期待感

現在のテレビ東京は、全国的ネットワークの弱さや、他局のような大きな予算を投入できないことは以前と変わりありませんが、かつて「番外地」とまで呼ばれたような寂寥感は過去のものとなりました。

むしろ、テレビというメディアがある種の閉塞感に包まれている現在において、何か新しいもの、何かワクワクするもの、つまり“テレビ的”なるものを出現させてくれそうな期待感が、この局にはあるのです。

苦肉の策から生まれたゲリラ的、挑戦的な“アナザーウェイ”と“オリジナリティ”が、この25年間で鍛えられ、大きく進化して、今日のテレビ東京の原動力となっているのだと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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