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叫ぶもよし、歌うもよし、Web限定「動画CM」が盛り上がっている!?

碓井広義メディア文化評論家
屋上で叫ぶ、湯川玲菜さん(動画CM「わたしのライバル宣言」より)

「動画CM」の盛り上がり

「動画CM」が、かなり面白くなってきています。テレビCMではなく、文字通りWeb動画によるCMです。

当然ですが、番組と番組の間にランダムに挿入され、流れては消えていく、いわゆるスポットCMとはかなり違っています。

Webで公開されるものですから、基本的には、15秒、30秒といった尺(長さ)の制限がありません。長編だってOK。

また、放送という枠の中に置かれるわけではありませんから、表現や内容の「自由度」も、テレビCMと比べたら確保されています。トガッた表現や、ディープな内容も大丈夫。

それに、こちらは「見に来てくれた視聴者」が対象ですから、制作側の「伝えたいこと」や「見せたいもの」をストレートに届けることが可能です。

以前は、テレビで流しているCMのロングバージョンが、Web上に置かれているケースが多かったのですが、現在は最初から「Web限定」で制作・公開される動画CMがたくさんあって、傑作や話題作にも事欠きません。

最近の動画CMの中から、注目作を挙げてみました。

ハウス食品「わたしのライバル宣言 ~この冬、負けたくない。~ #がんばれクリームシチュー」篇

舞台は夕暮れの校舎。屋上に一人の女子高生(湯川玲菜さん)が現れます。しかも真剣な表情で、「皆さん、聞いて下さい!」と呼びかけるのです。

彼女が語るところによれば、所属している演劇部に、優れた仲間がいる。いつも圧倒されてきた。才能の差だと思っていた。でも、本当は努力の差でした。

だから、もう背中を追いかけるのはやめようと思う。これからは憧れの存在ではなくライバルだと決めたのです。彼女の叫びは、堂々の「ライバル宣言」でした。

まるで青春ドラマのワンシーンのようですが、そうではありません。「あなたを超えて冬の主役になってみせる!」と叫ぶ彼女、実はクリームシチューだったのです。そしてライバルは、なんと「お鍋」。あの、料理の「お鍋」です。

この動画CM、冬の人気料理ナンバーワンの座を目指す、ハウス食品の野心作と言っていいでしょう。「擬人化」という手法自体は珍しくありませんが、その徹底した作り込みに拍手です。

湯川さんは、秋元康さんが主宰する「劇団4ドル50セント」のメンバーです。その存在感からすると、先行する“お鍋”たちを震撼させる、強力なライバルに成長するかもしれません。

江崎グリコ「ALMONDPEAK presents マイクロズボラ」篇

主婦は毎日がんばっています。頼りになるのは自分だけ。しかも、やることは無限で時間は有限。「ちょっとくらい手を抜いてもいいじゃないの」と言いたい。

という主婦の皆さんの心の声に応えるのは、お笑いトリオ「ロバート」の秋山竜次さん。アーティスト風の白い衣装で登場し、「♪いいんだよ、マイクロズボラ(ちいさなずぼら)~」などと、極太の美声で歌い上げていきます。

靴下を足で脱ぐ。洗った手をシャツで拭く。新聞を鍋敷きにしちゃうなど、ズボラといっても可愛いものばかりです。

でも、主婦は真面目だから罪悪感をもっているんですね。だから、秋山さんが「いいよ」と、ひたすら肯定してくれることで癒されるのです。

それにしても秋山さんの歌唱力と、じっと主婦を見つめる目ヂカラがすごい。

動画全体が、謎のシンガーのプロモーションビデオみたいなので、肝心のチョコレート「アーモンドピーク」はどうするのかと思っていたら、何と間奏部分でしっかり商品説明。これも笑えます。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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