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沢村一樹主演『ユニバーサル広告社』は、今期ドラマの「隠れた名品」か!?

碓井広義メディア文化評論家
「ユニバーサル広告社」の社員一同(番組サイトより)

斜陽の商店街と、倒産寸前の広告会社の出会い

金曜8時のドラマ『ユニバーサル広告社~あなたの人生、売り込みます!~』(テレビ東京系)は、斜陽の商店街と倒産寸前の広告会社が出会うことで生まれた物語です。

小さな港町(ロケ地は神奈川県の三崎みたいですね)にある「さくら通り商店街」。名前は「さくら通り」ですが、桜の木1本ありません。全国各地で見られるような、閉めてしまった店が目立つ“シャッター商店街”のひとつです。ただ他所と違うのは、ここにユニバーサル広告社が移転してきたことかもしれません。

とはいえ、ユニバーサル広告社は電通や博報堂のような、大手の有名広告会社ではありません。社長の石井(三宅裕司)、CD(クリエイティブディレクター)の杉山(沢村一樹)、デザイナーの村崎(要潤)、そして事務職のエリカ(片瀬那奈)の4人だけという極小会社です。

中でも杉山は、かつて大手でバリバリと活躍していたCDです。故あって退職したのですが、当初は「引く手あまただろう」とタカをくくっていました。しかし、世の中はそんなに甘くなく、石井社長に拾ってもらったという経緯があります。

安い家賃のオフィスを求めて、さくら通り商店街の古ぼけたビルに引っ越してきたものの、舞い込んでくる依頼は結婚式場のチラシ制作、鮮魚店の呼び込み企画など利益にならないものばかり。しかし杉山たちは、とことん相手の身になって、採算度外視で誠実な仕事をしていきます。

小さな輝きを、大きな輝きにする仕事

もちろん、広告一つで何かが劇的に変わるわけじゃないですよね。杉山も、広告に過剰な期待をしていた喫茶店の娘・さくら(和久井映見)に向かって、「広告は魔法ではありません」と釘を刺します。でも続けて、「魔法じゃありませんが、小さな輝きを大きな輝きに導き、その輝きを多くの人に知らせるのが広告です」と言っていました。これは納得できる。

原作は荻原浩さんの小説ですが、脚本を担当する岡田惠和さんのカラーが色濃い。突飛な事件や出来事ではなく、普通の人の喜怒哀楽、つまり「日常の中にあるドラマ」を大切にしているのです。

だから杉山たちはヒーローでも救世主でもない。しかし、商店街の人たちの気持ちを少しずつ変えてきている。また杉山自身も徐々に変わってきました。それは十分にドラマチックです。

朝ドラ『ひよっこ』を書いた岡田さんの脚本でもあり、沢村さんはすでに懐かしい「お父ちゃん」に、和久井さんが愛すべき乙女「愛子さん」に見える瞬間があったりします。でも、それだって“ひよっこロス”となった視聴者に対する、やさしい心遣いだと思えばいい(笑)。

癒し系の「隠れた名品」!?

今期のドラマには、『陸王』、『ドクターX~外科医・大門未知子~』、『監獄のお姫さま』といった大作や話題作が並び、全体として豊作だと思います。

そんな中で、波瀾万丈の大きな物語も、緊迫の派手な見せ場もないのですが、この『ユニバーサル広告社~あなたの人生、売り込みます!~』は、見た人がちょっとほっこりできる、癒し系の「隠れた名品」なのではないでしょうか。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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