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クドカンドラマ『監獄のお姫さま』は、雑なのか、それとも緻密なのか!?

碓井広義メディア文化評論家

攻めのクドカン

攻めてますねえ、クドカン。この秋、最も楽しみにしていた、宮藤官九郎脚本『監獄のお姫さま』(TBS系)です。脚本家として、すっかり巨匠扱いされているクドカンですが、その変わらない“やんちゃ”ぶりとマイペースがうれしい。

クドカンドラマの特色は、キャラクターが物語を生むことです。登場人物たちはこれまでどう生きてきたのか。何をしてきたのか。それがそのままストーリーにつながっていきます。

閉鎖空間でのマニアックな笑い

6年前、女子刑務所で知り合った4人の受刑者(小泉今日子、森下愛子、菅野美穂、坂井真紀)と1人の刑務官(満島ひかり)。出所した彼女たちが、ある事件にからんだ復讐を果たそうとするのが、このドラマです。

初回で、さっそくターゲットとなるEDOミルク(雪印乳業→メグミルクみたいな?)社長・板橋(伊勢谷友介)の息子を誘拐し(すぐに解放)、さらに板橋本人まで拉致してしまいます。彼の婚約者をめぐる殺人事件で逮捕された、「爆笑ヨーグルト姫」こと先代社長の娘(夏帆)の冤罪を晴らすのが目的らしいのです。

第2話では、6年前の刑務所での様子が描かれました。小泉の罪は夫に対する殺人未遂ですが、他のメンバーの罪状や事情も徐々に明かされていくはずです。そして物語の軸となる、「姫」に関する出来事も、第3話でかなりわかってきました。

別世界のようでいて、どこか世間と地続きでもある女子刑務所。クドカンは、この密度の高い閉鎖空間を生かしながら、物語にマニアックな笑いをちりばめ、個性派女優たちが快演や怪演でそれに応えています。

「冷静に!」が口癖の馬場カヨを演じるのは、『あまちゃん』(NHK)の小泉今日子。満島ひかり、坂井真紀、そして森下愛子は皆、『ごめんね青春!』(TBS系)のメンバーでした。それぞれ、クドカンドラマのツボを熟知しています。

彼女たちの会話、いや、おばちゃんたちの「わちゃわちゃ」したダベリを聞いているだけでおかしいのに、朝・昼・晩の食事ごとに流れる「ごはんの歌」みたいな、お茶目な仕掛けもたくさんあって、笑っちゃいます。

錯綜する時間軸もドラマの快感!?

このドラマでは、2017年12月の「現在」と、刑務所時代などの「過去」を頻繁に行き来することになります。時間のジャンプ、いや連続ワープみたいなものですが、時間軸が錯綜するので、一見分かりづらいかもしれません。

しかし、時間を操ることは、ドラマという「劇的空間」ならではの醍醐味。見る側が、クドカンに鼻面を引き回される、もしくは翻弄されるのもまた、このドラマの快感です。

そうそう、拉致されている板橋社長が、彼女たちの「企て」と「行動」について、こんな感想を口にしていました。

 「雑なのか緻密なのか、わからない」

・・・確かに、馬場カヨたちのやってることって、そうなんですよね(笑)。言い得て妙というだけでなく、「雑なのか緻密なのか、わからない」は、このドラマの“面白さ”をも表現しているような気がします。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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