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Eテレ『香川照之の昆虫すごいぜ!』の香川照之は、やっぱりすごいぜ!

碓井広義メディア文化評論家

『香川照之の昆虫すごいぜ!』は不定期放送!

それは突然、やってきます。何しろ「不定期放送」ですから、油断していると見逃してしまうのです。

主人公は、人にして人にあらず、また昆虫にして昆虫にあらず。その名を「カマキリ先生」という。演じるのは名優・香川照之。そして、栄えある冠番組が『香川照之の昆虫すごいぜ!』(NHK Eテレ)です。今月9日に第3弾が放送されました。

名優は、超・昆虫マニア!

タイトル通りの昆虫番組なのですが、子供向けという既成概念を超えたインパクトがあります。あの香川さんが、精巧なカマキリの着ぐるみ(その監修も香川さん自身)を着用して「カマキリ先生」となり、原っぱや河川敷で昆虫採集にまい進するのですから。

聞けばこの番組、香川さんが民放のトーク番組で無類の昆虫好きを表明し、自ら「Eテレで昆虫番組をやりたい!」と望んだことがきっかけだったそうです。確かに、捕虫網を操る技術はもちろん、昆虫に関する知識も半端ではありません。

前回の放送は8月で、テーマは「タガメ」でした。昆虫少年の頃に一度触っただけで長いご無沙汰となり、なんと40年ぶりの再会だと言います。

タガメは、きれいな水にしか生息しないにも関わらず、小魚やカエルを難なく食べてしまう、どう猛な生き物です。香川さんはタガメを「殺人犯」に、自らを「タガメ捜査一課長」に見立て、全国の子供たちにも応援をお願いして大追跡を敢行。 有力な目撃情報に導かれて、栃木へと出張っていきます。結局、4時間をかけて全長7センチの大物を、見事「現行犯逮捕」しました。

昆虫たちの「秘密」や「奥義」に迫る!

今回の最新作では、日本最大のトンボ「オニヤンマ」の捕獲に挑みました。神奈川県の某所に赴いたカマキリ先生は、以前の「モンシロチョウ」の時もそうでしたが、オニヤンマを発見するやいなや、まるで座頭市の仕込み杖のような速さで補虫網を切り返し、次々と大物を捕獲していくのです。

またオニヤンマが時速60キロという猛スピードで飛べるだけでなく、4枚の羽根を巧みに動かして、ヘリコプターがホバリングするように空中で停止する妙技の秘密も解明していきます。

さらにオニヤンマ以上の速さで飛行しながら、エサとなる虫を捕まえる「ギンヤンマ」の離れ技を体感するために、カマキリ先生はクレーンでつり上げられた状態で、時速70キロで発射されたボールをキャッチする実験を行っていました。この根性には頭が下がります。

この番組の面白さを支えているのは、一にも二にも香川さんの狂気、いや本気です。何かを徹底的に好きになるって、こんなに素敵なことなのだと教えてくれる。

「人間よ、昆虫から学べ」というカマキリ先生の主張は、「スマホの中だけが世界じゃないよ!」という子供たちへの熱いメッセージでもあります。

歌舞伎界では、「九代目 市川中車(ちゅうしゃ)」である香川さん。今後は同じ「ちゅうしゃ」でも、「市川虫者」を名乗るといいかもしれません(笑)。

ちなみに、不定期放送のこの番組を見逃した人のために、21日(土)午後4時半から、嬉しい再放送があるそうです。

やっぱり、香川すごいぜ!

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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