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さて、問題です! クイズ番組で「時代の空気」を感じさせた『ひよっこ』

碓井広義メディア文化評論家

NHK朝ドラ『ひよっこ』の放送も、あと1ヶ月半となりました。ヒロインの谷田部みね子(有村架純)が東京に来るきっかけは、父親の実(沢村一樹)が、出稼ぎ先の東京で行方不明となったことです。

その実もようやく見つかり、過去の記憶を失った状態とはいえ、先週、故郷の奥茨城に戻ることができました。妻・美代子(木村佳乃)たちと暮す中で、ゆっくりと記憶が戻るのではないでしょうか。

『勝ち抜きクイズ3Q』のオンエア

今週放送されたのは、ドラマの時制では1967年(昭和42年)6月11日(日)の出来事です。この日、向島電機の乙女寮で一緒に暮らしたメンバーのうち、秋田に嫁いだ優子(八木優希)を除く全員が、みね子や時子(佐久間由衣)たちのアパートに集まりました。

各人が近況報告をした後、豊子(藤野涼子)の提案でテレビのクイズ番組を、みんなで見ることになります。実はこのクイズ番組『勝ち抜きクイズ3Q(サンキュー)』に、豊子自身が出場していたのでした。しかも、司会者は本物(!)の押阪忍さん。ご本人が「司会・押阪忍」の役柄で登場です。

押阪さんといえば、『ベルトクイズQ&Q』(TBS系)が懐かしい。放送は1969年からで、その3年後から押阪さんが司会を務めるようになりました。『3Q』は、『Q&Q』と同様の「対戦型勝ち抜き早押しクイズ」です。

ちなみに、1967年(昭和42年)6月時点で、実際に放送されていたクイズ番組としては『アップダウンクイズ』(毎日放送制作)があります。63年の放送開始で、10問連続正解すれば、「ハワイ旅行」がゲットできました。

『3Q』も3人を倒せば、「賞金30万円」と「ペアでハワイ旅行」がプレゼントされます。この頃はまだ、「ハワイ旅行」は結構な高嶺の花だったんですよね。

クイズとテレビと「時代の空気」

結果的に豊子は見事3人に勝つのですが、このクイズ番組の「出題」がなかなか秀逸でした。

『ベルトクイズQ&Q』でも、『アップダウンクイズ』でも、知識・雑学系の問題にまじって、時事ネタともいえる問題が出題されました。

この日の『3Q』では、「昨年、たった1球投げただけで優勝投手になった、中日ドラゴンズのピッチャーは誰でしょう?」という問題が出ました。正解は「板東英二」です。

最近だと、板東さんがプロ野球投手だったことを知らない世代も多くなりました(笑)。私が所属していたテレビマンユニオン制作の『世界・ふしぎ発見!』(TBS系)に、板東さんが出演されるようになるのは、このときの中日優勝から約20年後のことです。

で、また別の問題は、「昨年、紅白歌合戦に初出場した加山雄三さんが、作曲家として活動するときの名前は?」。今年80歳の「若大将」が、本当に若かった頃ですね。この答えは「弾 厚作(だん こうさく)」。

さらに、「落語『授業中』で大人気の噺家・三遊亭歌奴(うたやっこ)。鉄道局時代、駅員を務めていた駅は?」ときて、正解は「新大久保」。歌奴とは、後の3代目三遊亭圓歌師匠ですが、今年4月に88歳でお亡くなりになりました。当時は「山のアナ、アナ・・・」が大うけで、テレビ局をハシゴしていたはずです。

他にも、「おととし、日本公開のミュージカル映画『メリーポピンズ』の中で・・」とか、「山本リンダさんのヒット曲『こまっちゃうナ』。1番の歌詞で・・」とか、時代感満載の出題が続きました。

みね子たちがこのクイズ番組を見ているのは、向島電機の先輩だった愛子(和久井映見)の部屋。そして、テレビはモノクロ(白黒)です。一方、秋田の嫁ぎ先で優子が見ているのはカラーテレビです。

この時代、まだカラー放送の番組は多くなく、高額商品であるカラーテレビも十分に普及していませんでした。

とはいえ間もなく、ソニーの「トリニトロンカラー」だの、松下の「パナカラー」だのといったカラーテレビが、続々登場してくるようになります。そんな「カラーテレビ前夜」のこの国の様子を垣間見せてくれたわけです。

クイズ番組と日本人

一昨年の夏、2000回を迎えたのは『パネルクイズ アタック25』(朝日放送制作)。スタートが1975年ですから、今年で42年にもなります。

また前述の『世界・ふしぎ発見!』も、昨年が30周年でした。いずれも視聴者の支持があってこその長寿番組です。

思えば、日本人はずっと、かなりのクイズ好き、クイズ番組好きでした。そこには、日本人の真面目さや勉強好きといった側面があるように思います。日本人にとって、クイズ番組は「娯楽」であると同時に、バーチャルな「教室」として捉えられてきたのかもしれません。

代表例としては、80年代の人気番組『クイズ面白ゼミナール』(NHK)が挙げられます。司会はメガネの鈴木健二アナウンサー。その前口上は、「知るは楽しみなりと申しまして、知識をたくさん持つことは、人生を楽しくしてくれるものでございます」でした。

ドラマの中で、1967年(昭和42年)6月11日(日)に放送された、人気クイズ番組『勝ち抜きクイズ3Q』。働きながら学んで蓄えてきた知識を武器に、賞金30万円とハワイ旅行を獲得した豊子さんに拍手です。その賞金で、実家の借金も解消できたようだし、よかったね!

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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