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大谷翔平が契約を打ち切れるオプト・アウトは発生するのか。オーナーと編成責任者の交代はよくある!?

宇根夏樹ベースボール・ライター
左からマーク・ウォルター、大谷翔平、アンドルー・フリードマンDec14,2023(写真:ロイター/アフロ)

 大谷翔平とロサンゼルス・ドジャースが交わした10年7億ドル(2024~33年)の契約に、選手が契約を途中で打ち切ることのできる、オプト・アウトの権利はついていない。ただ、これから発生する可能性はある。

 ジ・アスレティックのケン・ローゼンタールによると、ドジャースに特定の人事異動があれば、大谷は、そのオフにオプト・アウトできるという。APのベス・ハリスとロナルド・ブラムは、マーク・ウォルターが球団の支配権を持つオーナーではなくなるか、編成責任者のアンドルー・フリードマンが退団した場合に、契約の打ち切りは可能になる、と報じている。

 現在、ドジャースは、グッゲンハイム・ベースボール・マネージメントが所有している。そのリーダーであるウォルターは63歳。ドジャースにおける肩書きは、チェアマン(会長)とオーナーだ。

 ちなみに、グッゲンハイム・ベースボール・マネージメントには、マジック・ジョンソンやビリー・ジーン・キングも名を連ねている。それについては、こちらに書いた。

「バスケットボールに加え、テニス界のレジェンドもドジャースのオーナーに」

 ウォルターが率いるグッゲンハイム・ベースボール・マネージメントは、2012年5月にフランク・マッコートからドジャースを買収した。マッコートは、2004年1月にフォックス・エンターテインメント・グループ――ニューズ・コーポレーションのルパート・マードックがトップ――からドジャースを買った。今世紀に入ってから、オーナーの交代が2度起きていることからすると、大谷の契約期間中に3度目がないとは言いきれない。

 マードックの前は、約半世紀にわたり、オマリー家がドジャースを所有していた。ウォルター・オマリーが亡くなった後は、息子のピーター・オマリーがオーナーとなった。

 一方、フリードマンの肩書きは、プレジデント・オブ・ベースボール・オペレーションズだ。ざっくり言うと、GMの上に位置し、編成部門を司る。ドジャースのGMは、2011~15年にタンパベイ・レイズでリリーフ投手として投げた、ブランドン・ゴームズが務めている。

 フリードマンは47歳。現職に就任したのは、2014年10月だ。それまでは、レイズの編成責任者だった。

 各球団の編成部門のトップ(現職)を在任期間の長い順に5人並べると、ニューヨーク・ヤンキースのブライアン・キャッシュマン(1998年2月~)、セントルイス・カーディナルスのジョン・モゼラック(2007年10月~)、ワシントン・ナショナルズのマイク・リゾー(2009年3月~)、サンディエゴ・パドレスのA.J.プレラー(2014年8月~)に、フリードマンとなる。リゾーは、1980年代前半に、カリフォルニア・エンジェルス傘下のマイナーリーグで、内野手としてプレーした。

 編成トップの交代は、珍しくない。例えば、ロサンゼルス・エンジェルスのGM(編成責任者)は、2001年以降、ビル・ストーンマン→トニー・リーギンス→ジェリー・ディポート→ストーンマン→ビリー・エプラー→ペリー・ミナシアンと変遷している(ストーンマンとディポートは、元メジャーリーガー)。現在、ディポートは、シアトル・マリナーズの編成責任者だ。

 ここから、ドジャースが勝てなくなれば、フリードマンの解任は起こり得る。しかし、今のところ、その可能性は高くない。

 ドジャースは、2013年から2023年まで、11年続けてポストシーズンに進んでいる。この間に地区優勝を逃したのは、2021年だけだ。この年は、ナ・リーグで2番目に多い106勝ながら、同地区のサンフランシスコ・ジャイアンツが107勝を挙げた。ワールドシリーズ進出は、2017~18年と2020年の3度。2020年はレイズを破り、32年ぶりのワールドシリーズ優勝を飾った。2017年のワールドシリーズで対戦したヒューストン・アストロズは、ホーム・ゲームで相手バッテリーのサインを盗んでいた。

 フリードマンはレイズからドジャースへ移ったが、勝ち続けている限り、ドジャースはフリードマンを手放そうとはしないだろう。退団があるとすれば、不祥事を起こした場合くらいだろうか。アストロズは、2018年6月にGMのジェフ・ルーノーと5年間の延長契約(2019~23年)を交わし、肩書きを編成責任者としたが、契約途中の2020年1月に解雇している。サイン盗みが発覚しなければ、ルーノーは、今もアストロズの編成を司っていたと思われる。

 なお、選手ではないが、2014年のオフ、レイズの監督だったジョー・マッドンは、フリードマンの退団によってオプト・アウトの権利を得て、それを行使した。レイズを去り、シカゴ・カブスの監督に就任した。

 もっとも、大谷がオプト・アウトの権利を手にしても、それを行使するかどうかは、別の話だ。行使せずにオプト・インし、そのまま、ドジャースに残ることもできる。

 ドジャースは、大谷の同意なしに、トレードで他球団へ放出することはできない。契約には、トレード拒否権がついている。

 他の選手たちが交わした長期契約のオプト・アウトについては、こちらで書いた。

「大谷翔平がドジャースと交わした「オプト・アウトなしの長期契約」は異例なのか」

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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