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史上最多の5460試合に「出場」した審判にスポットライトが当たった日

宇根夏樹ベースボール・ライター
ジョー・ウエスト Jun 3, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 昨年のシーズン終盤に公言していたとおり、審判のジョー・ウエストが引退した。

 1976年から2021年にかけて、ウエストは、レギュラーシーズンの5460試合で審判を務めた。これは、どの審判よりも多い。昨年5月に、ビル・クレムが保持していた5375試合の最多記録を塗り替えた。ちなみに、クレムが審判だったのは1905~41年、ウエストが生まれたのは1952年だ。

 レギュラーシーズンだけでなく、ワールドシリーズを含むポストシーズンやオールスター・ゲーム、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)にも、ウエストは、審判として「出場」している。最後の試合は、昨年のナ・リーグのワイルドカード・ゲームだ。球審を務めた。

 なかでも、5年前のオールスター・ゲームの一場面は、印象に残っている。6回表、代打に起用されたネルソン・クルーズ(当時シアトル・マリナーズ/現FA)は、そのまま打席に入るのではなく、パンツのポケットからスマホを取り出した。そして、捕手のヤディアー・モリーナ(セントルイス・カーディナルス)に話しかけながらスマホを渡すと、球審のウエストの肩に手をかけ、モリーナのほうを向いて微笑んだ。モリーナは、クルーズに近寄ってスマホの使い方を教わった後、右膝をついて構え、2人を撮影した。

左から、N.クルーズ、J.ウエスト、Y.モリーナ Jul 11, 2017
左から、N.クルーズ、J.ウエスト、Y.モリーナ Jul 11, 2017写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 試合中とはいえ、レギュラーシーズンやポストシーズンではなく、オールスター・ゲームだ。前年まで、ワールドシリーズのホーム・フィールド・アドバンテージは、オールスター・ゲームに勝ったリーグのチームが手にしていたが、この年から、それもなくなった。また、この記念撮影は、プレー中ではなかった。手を抜いたプレーにより、相手の選手にサイクル安打を達成させたのとは、意味が違う。

 この前月、ウエストは、史上3人目の出場5000試合に到達した。オールスター・ゲームという注目が集まる舞台において、ウエストにリスペクトを示したクルーズの行為は、MVPに値する――実際に受賞したのは、クルーズのチームメイトで同じドミニカンのロビンソン・カノー(現ニューヨーク・メッツ)――と思う。撮影者が名捕手のヤディであることも、華やかさを増した。

 この2ショットの写真は、今も、クルーズのインスタグラムに掲載されている。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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