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山本由伸が今年も「投手三冠」なら、連続は史上初。三冠の翌年に2タイトルは…

宇根夏樹ベースボール・ライター
山本由伸 Aug 4, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 昨年、山本由伸(オリックス・バファローズ)は、最優秀防御率、最多勝、最多奪三振のタイトルを獲得した。この「投手三冠」は、一昨年の千賀滉大(福岡ソフトバンク・ホークス)に続き、延べ22人目だ。

 今年も山本が三冠となれば、1949年までの1リーグ時代も含め、日本プロ野球史上初となる。2度達成した投手も、1958年と1961年の稲尾和久しかいない。

 2020年の千賀は、最多勝と最多奪三振のタイトルを他の投手と分け合った。149奪三振は山本と同数だ。一方、2021年の山本は、3タイトルとも他の投手に大差をつけた。山本の防御率1.39、18勝、206奪三振に対し、それぞれの2位は、防御率2.51、13勝、152奪三振だ。防御率の差については、「オリックスの山本由伸が塗り替えた記録。防御率2位と「1点以上の差」は史上初」で書いた。

 もっとも、その差が翌年に引き継がれるわけではないし、そもそも、タイトルは相対的なものだ。優秀な数値を記録しても、それを凌ぐ選手がいれば、獲得はできない。また、勝ち星の場合、投球内容はいいにもかかわらず、恵まれないことも――それとは逆のパターンも――ある。昨年の田中将大(東北楽天ゴールデンイーグルス)が、いい例だ。リーグ5位の防御率3.01を記録しながら、4勝しか挙げられず、9敗を喫した。

 三冠の翌年に3タイトル中2タイトルを獲得した投手も、2人だけだ。1938年の秋に三冠のビクトル・スタルヒンは、1939年に最多勝と最多奪三振。1990年に三冠の野茂英雄も、1991年に最多勝と最多奪三振の2タイトルを手にした。スタルヒンの最多勝は、1937年の秋から1940年まで、5シーズン連続だ。野茂は、1990年から1993年まで、4シーズン続けて最多勝と最多奪三振を獲得した。ちなみに、野茂のメジャーデビューは1995年だ。1994年は規定投球回に届かず、無冠に終わった。メジャーリーグでは、1995年(ナ・リーグ)と2001年(ア・リーグ)に奪三振王となった。

 また、三冠の翌年に最優秀防御率は皆無。スタルヒンと野茂は、三冠のシーズン以外にこのタイトルを獲得していない。

筆者作成
筆者作成

 とはいえ、なかには、2年連続の三冠に近かった投手もいる。例えば、1960年の杉浦忠は、リーグ最多の317三振を奪い、防御率2.05と31勝は、それぞれ2位に位置した。両部門とも、杉浦を上回ったのは、小野正一だ。防御率1.98を記録し、33勝を挙げた。

 1982年の江川卓も、杉浦と同じく、奪三振が1位、防御率と勝利は2位だ。防御率は斉藤明夫(2.07)、勝利は北別府学(20勝)が、江川の上にいた。

 稲尾の場合、三冠の翌年は2度とも無冠ながら、1959年も1962年も、3部門すべてが2位だった。1959年はいずれも杉浦の後塵を拝し、1962年は異なる3人、防御率2.12の久保田治、28勝の久保征弘、231奪三振の米田哲也にタイトルを阻まれた。

 なお、昨年の山本は、沢村栄治賞を受賞した。こちらは、続けて選出された投手が5人いる。1951~52年の杉下茂、1956~58年に3年連続の金田正一、1965~66年の村山実(1966年は堀内恒夫と同時受賞)、1995~96年の斎藤雅樹、2017~18年の菅野智之(読売ジャイアンツ)がそうだ。1950~88年はセ・リーグの投手のみが対象だったことも理由だが、山本が今年も選ばれれば、パ・リーグの投手では初の連続受賞となる。

 一昨年の千賀のように、三冠にもかかわらず、沢村賞を受賞できなかった投手については、こちらで書いた。

「投手三冠で沢村賞を逃したのは1人だけ。千賀滉大は2人目になる!?」

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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