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来シーズンの契約が残っている監督が、他球団の監督に就任。去られた球団は、なぜ移籍を許可したのか

宇根夏樹ベースボール・ライター
ボブ・メルビン Aug 11, 2021(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ボブ・メルビン監督が、オークランド・アスレティックスからサンディエゴ・パドレスへ移るらしい。パドレスのビート・ライター、MLB.comのAJ・キャッサベルが「パドレスとボブ・メルビンが3年契約で合意」と報じている。

 レギュラーシーズンの終了直後、パドレスはジェイス・ティングラー監督を解任し、次の監督を探し始めた。メルビンの前には、新監督の候補として、ブラッド・オースマスマイク・シールトルイス・ロハスオジー・ギーエンらの名前が報じられていた。

 ロハスとシールトは、今シーズンが終わるまで、それぞれ、ニューヨーク・メッツとセントルイス・カーディナルスで采配を振っていた。半月前に「3年連続ポストシーズン進出の監督が解任。その理由は…」で書いたとおり、2人とも解任されたばかりだ。ギーエンはシカゴ・ホワイトソックス(2004~11年)とマイアミ・マーリンズ(2012年)で監督を務め、オースマスはデトロイト・タイガース(2014~17年)とロサンゼルス・エンジェルス(2019年)で指揮を執った。

 メルビンはシアトル・マリナーズ(2003~04年)とアリゾナ・ダイヤモンドバックス(2005~09年)に続き、2011年からアスレティックスで采配を振ってきた。ポストシーズン進出は、2007年、2012~14年、2018~20年の7度。2007年、2012年、2018年は、最優秀監督に選ばれている。

 パドレスがメルビンを選んだことに驚きはないが、アスレティックスがメルビンを手放したのは意外な気がする。3年前に交わした2年契約(2020~21年)には、1年分の球団オプションがついていて、アスレティックスは今年6月にこのオプションを行使した。それから、まだ半年も経っていない。にもかかわらず、キャッサベルやESPNのオールデン・ゴンザレスによると、メルビンがパドレスの面接を受けることを、アスレティックスは許可したという。

 コーチであれば、在任中に、他球団の監督候補として面接を受けることは珍しくない。たとえ、残留してほしくても、コーチから監督に「ステップアップ」するチャンスを阻むことはしない、ということだろう。ただ、監督の場合は異例だ。

 マリナーズの監督を務めていたルー・ピネラは、2002年のオフにタンパベイ・デビルレイズの監督となったが、この時、デビルレイズはピネラ(とマイナーリーガー1人)を獲得する見返りとして、レギュラー外野手のランディ・ウィンをマリナーズへ譲った。けれども、キャッサベルによると、メルビンが去っても、アスレティックスがパドレスから補償を受けることはないという。

 もしかすると、これはペイロール(年俸総額)削減の前ぶれなのだろうか。財政上の理由から今オフに何人かの選手を手放し、それによって勝てる可能性が減るのであれば、監督はメルビンでなくても構わない、と考えているのかもしれない。

 そうであれば、アスレティックスの新監督の年俸は、400万ドル以下になるだろう。メルビンがアスレティックスに残っていた場合、来シーズンの年俸は400万ドルだった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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