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1試合に6人がレフトを守り、そのうち3人は投手。彼らを起用したのは、もちろんあの監督だった

宇根夏樹ベースボール・ライター
トラビス・ウッド(シカゴ・カブス)May 30, 2016(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

6月28日の試合で、選手起用の椿事が起きた。シカゴ・カブスの6人がレフトを守り、しかも、そのうち3人は投手だった。このことは日本でも報じられたが、詳しい経緯まで説明している記事は見当たらなかったので、振り返ってみたい。

まず、カブスが1点をリードして迎えた9回裏。レフトのウィルソン・コントレラスが下がり、センターにいたマット・シーザーがレフトへ移動し、センターにはコントレラスと交代したアルバート・アルモーラJr.が入った。この回、カブスは同点に追いつかれた。

続いて、同点の11回裏。直前にアルモーラの代打として出場したクリス・コグランがレフトの守備につき、シーザーはセンターへ戻った。

ここまでレフトを守ったのは、コントレラス、シーザー、コグランの3人。人数は多いものの、いずれも野手だった。

だが、試合はその後も均衡を保ったまま進み、13回裏、1死一、二塁の場面で、レフトのコグランと交代したジョエル・ペラルタがマウンドに上がり、レフトには、それまで投げていたトレバー・ケイヒルと交代したトラビス・ウッドが入った。ケイヒルとペラルタだけでなく、ウッドも投手だ。

これはダブル・スイッチ。簡単に説明すると、投手と野手、野手と投手を同時にそれぞれ交代させ、起用した投手に打席が回ってくるのを遅らせる。しかし、カブスの野手はすでに全員出場し、誰も残っていなかったため、投手と交代して出場する野手として、ウッドが起用された。ウッドは打撃を得意としていて、2013~14年は2年続けて3本塁打を放っている。また、この6日後には代打で起用されてヒットを打ち、そのままマウンドに上がった。

話をレフトの交代に戻すと、ウッドは14回表の打席で、前の2人に続いて凡退し、その裏もレフトの守備についた。投手はペラルタからスペンサー・パットンに交代。パットンは最初に対戦した3番打者をアウトにした後、ウッドとポジションを入れ替わった。ようやく登板したウッドは、4番打者を討ち取るとレフトに戻り、再びマウンドに立ったパットンが、5番打者からアウトを奪った。右→左→右と続く相手打線の中軸に対し、カブスは右→左→右(パットン→ウッド→パットン)と投手を起用し、この回も無失点に抑えた。

カブスは15回表に5点を挙げ、その裏はウッドが投げて抑えた。ただ、レフトはパットンではなく、6人目のペドロ・ストロップが守った。15回表に、パットンの代打としてジェイソン・ハメルが打席に入り、その裏は、ハメルと交代したストロップが守備についた。野手を使いきっていることからわかるように、ハメルもストロップも投手だ。

この采配は、ジョー・マッドン監督が揮った。彼以外にこんな選手起用をしそうな監督は、少なくとも今のメジャーリーグにはいない。前に「相手はDHを使っているのにこちらは投手が4番。7年前にはマッドン監督もア・リーグの試合で投手を3番に」で書いたように、マッドンといえども常に冴えているわけではないが。

なお、ウッド、パットン、ストロップの3投手がレフトを守っている間、打球はそこに一度も飛んでいかなかった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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