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盗塁王5度のスピードスターが映画のプロデューサーに。有望株だったハードボーラーはUBERドライバーに

宇根夏樹ベースボール・ライター
ケニー・ロフトン July 27, 2007(写真:ロイター/アフロ)

最近、元メジャーリーガーに関する2つの記事を目にした。どちらも、ベースボールとは無関係な、現在の職業について書いてある。

FOXスポーツのリンジー・フォルティンが発表した記事に登場するのは、ケニー・ロフトンだ。1990年代にクリーブランド・インディアンスで5年続けて盗塁王を獲得し、通算622盗塁を決めたスピードスターが、映画「マイ・ファースト・ミラクル」でエグゼクティブ・プロデューサーを務めたという。

ロフトンの甥であるサーロック・ロフトンは俳優をしていて、「スタートレック」のテレビ・シリーズなどに出演しているが、そのつながりではないらしい。ロフトンは記事の中で「アリゾナ大でテレビ&フィルムの学位を得ており、引退後はそれを実践したいと思っていた」と語り、2004年にフィルムプールというプロダクションを作ったことも明かしている。

フィルムプールのホームページには、会社の設立は2004年1月、オーナーはロフトン(CEO)とブレントン・アーリー(プレジデント)の2人と記されている。ロフトンは2007年まで、メジャーリーグでプレーしていた。アーリーは俳優・プロデューサーと紹介されており、ベースボールの世界にいたことはないようだ。

「マイ・ファースト・ミラクル」は骨髄異形成症候群にかかった16歳の少女の話だ。大作ではない。監督はルディ・ルナという人物で、出演しているのはショーン・パトリック・フラナリー(「インディ・ジョーンズ」のテレビシリーズ、「処刑人」)やジェイソン・ロンドン(「バッド・チューニング」、天海祐希主演「クリスマス黙示録」)、クイントン・アーロン(サンドラ・ブロック主演「しあわせの隠れ場所」)ら。この映画が、日本で公開されることはあるのだろうか。ロフトンの名前はメジャーリーグのファンにはよく知られているが、それでは客は呼べないだろう。

もっとも、ロフトンはMLB.comのジョーダン・バスティアンに「次のスティーブン・スピルバーグになりたい」と語っている。このコメントは半分冗談かもしれないが、ロフトンのプロデュースした作品が、日本の映画館でも上映される日が来るかもしれない(そう願いたい)。

もう一つの記事は、オレンジ・カウンティ・レジスターのペドロ・モーラが書いている。今年のウィンター・ミーティングが開かれたテネシー州ナッシュビルで、フロイド・ユーマンズがUBER(ウーバー)のドライバーをしているという。ざっくり言うと、UBERはアプリを使った配車サービスだ。

ユーマンズは1980年代にメジャーリーグで94試合に登板した。当時は、ハードボーラーであることから、1920年代に存在した銀行強盗に引っかけて「プリティ・ボーイ・フロイド」と呼ばれていた。ユーマンズより後年になるが、ビリー・ワグナーのニックネームが「ビリー・ザ・キッド」だったのと同じパターンだ。余談ながら、本家のプリティ・ボーイ・フロイドについては、エルモア・レナードの小説「ホット・キッド」でも描かれている。

大成はできなかったものの、ユーマンズは期待のプロスペクトだった。少年時代からドワイト・グッデンとともに過ごし、そのピッチングを比べられてきた。ニューヨーク・メッツは1982年のドラフトで、1巡目にグッデン、2巡目にユーマンズを指名した。1984年のオフにメッツがゲリー・カーターを獲得した時、交換にモントリオール・エクスポズ(現ワシントン・ナショナルズ)へ放出した4人には、メジャーデビュー前のユーマンズが含まれていた。このトレードからも、ユーマンズに対する評価の高さは窺える。ついでに言えば、酒とドラッグに溺れたところも、ユーマンズとグッデンは共通している。

UBERのホームページを見る限り、ドライバーを指名するシステムはないようだが、車種ラインナップのページがあり、uberX、TAXI、BLACK、SUV、LUXのいずれかを選ぶことになっている。モーラの記事によれば、ユーマンズが運転しているのは白のGMCユーコン・デナリだ。ナッシュビルでSUVを選べば、グッデンになれなかったハードボーラーがやってくるかもしれない。ただ、その車に乗った時にうれしく思うのか、哀しく感じるのか。自らに問いかけてみたが、答は出なかった。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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