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サイクルヒットは三塁打で達成されることが多い。今シーズン第1号のホルトもその例に漏れず

宇根夏樹ベースボール・ライター

6月16日、ブロック・ホルト(ボストン・レッドソックス)がサイクルヒットを達成した。1打席目の二塁打を皮切りに、2打席目の内野ゴロを挟み、3打席目はシングルヒット(単打)、4打席目はホームラン。そして、リーチをかけた5打席目に三塁打を放った。

1985年のジェフリー・レナードから数えて、ホルトは延べ102人目のサイクリストとなった。レナードの前には約200人が成し遂げており、102人は全達成者の3分の1にあたる。下のグラフは、彼らが4種のヒット――単打、二塁打、三塁打、本塁打――をどの順番で打ったかに分け、それぞれの人数を示したものだ。4打席目に達成したのは44人だが、ホルトを含めた58人についても、前後や途中の打席で記録したアウト、四球、死球、同じ種類のヒット(例えば2本目の単打)などは省いた。ちなみに、キース・ヘルナンデス(1985年)、ジェイ・ビューナー(1993年)、ロンデール・ホワイト(1995年)の3人は、達成までに7打席を要し、キースはその後も4打席に立った。

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ホルトのように、リーチをかけた後に三塁打を打ってサイクルヒットを達成したケースは、グラフで赤く示してある。その合計は39回に達し、全体の38.2%を占める。単打での達成は20回(19.6%)、二塁打は19回(18.6%)、本塁打は24回(23.5%)。明らかに三塁打が突出している。一方、サイクルヒットをどのヒットでスタートさせたかは、まったく逆になる。単打、二塁打、本塁打はほぼ同じで、それぞれ28回(27.0%)以上であるのに対し、三塁打は16回(15.7%)に過ぎない。

2種のヒットを記録し、サイクルヒットまで半分に達した時点で三塁打をクリアしているケースも、37回と少ない。こちらは単打が54回、二塁打が56回、本塁打は57回だ。最初の2種の組み合わせ(順番は問わず)は「単打と二塁打」の23回が最も多く、最も少ないのは「二塁打と三塁打」「単打と三塁打」の各11回。「三塁打と本塁打」も15回しかなく、ワースト3には、最初の2種に三塁打を含む組み合わせが並ぶ。

20世紀初頭までは本塁打よりも三塁打の方が多かったが、1932年以降、三塁打の本数が本塁打を上回るシーズンは姿を消した。昨シーズンのヒットは、単打が2万8423本、二塁打が8137本、本塁打が4186本だったのに対し、三塁打は849本しかなかった。

三塁打でサイクルヒットを達成する者が多いのは、最も出にくいゆえに最後の関門となるからだろう。単打と二塁打と本塁打を放ちながら、三塁打を打てずにサイクルヒットを逃すという構図も浮かび上がってくる(ホルトがサイクルヒットを達成した試合で、チームメイトのムーキー・ベッツがリーチをかけながら打てなかったのは、三塁打ではなく本塁打だったが)。また、いつもなら二塁でストップする一打であっても、サイクルヒットの達成に、残すは三塁打となれば、立ち止まることなく三塁まで走る選手もいるかもしれない。

なお、サイクルヒットのなかでも「単打-二塁打-三塁打-本塁打」の順番に記録した場合は、他と区別して「ナチュラル・サイクル」と呼ぶ。1985年以降では、ジョン・メイブリー(1996年)、ホゼ・バレンティン(2000年)、ブラッド・ウィルカーソン(2003年)、ゲリー・マシューズJr.(2006年)の4人が達成している。ただ、「ナチュラル・サイクル」よりもレアな順番もある。102人のなかに「三塁打-単打-本塁打-二塁打」の順番で達成した者は一人もいない。

さて、ここからは余談。サイクルヒットのように、4つをクリアして達成となる記録は他にあるだろうかと考えたところ、テニスのグランドスラムが思い浮かんだ。サイクルヒットと共通点があるわけではないが、満塁本塁打を「グランドスラム」と呼ぶこともあり、興味が湧いたので、達成するまでの順番について調べてみた。

男子シングルスでは、これまでに7人がキャリア・グランドスラムを達成している。そのうち、ドン・バッジとアンドレ・アガシの2人は「ウィンブルドン-U.S.-オーストラリアン-フレンチ」の順番。他の5人はそれぞれ違う順番だが、フレッド・ペリーとロジャー・フェデラーの2人も、最後はフレンチだった。また、現在リーチをかけているノバク・ジョコビッチが優勝していないのもフレンチだ。もっとも、これらのことは、テニス界では今さら言うまでもない常識なのかもしれない。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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