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2013年WBC代表から4人目の亡命者。キューバからMLBへと向かう流れは、日本行き解禁後も止まらず

宇根夏樹ベースボール・ライター

2014年6月20日、ヤスマニ・トマースがキューバから亡命したことが報じられた。トマースは右打ちの外野手。23歳と若く、まだ粗削りながらパワーがあり、2013年のWBCでは日本戦と台湾戦でホームランを打った。

2013年のWBCに出場したキューバンの亡命は、ホゼ・アブレイユ、エリスベル・アルバレーナとレイセル・イグレシアスに続き、トマースが4人目(3度目)となった。すでに、アブレイユはシカゴ・ホワイトソックス、アルバレーナはロサンゼルス・ドジャースからメジャーデビューしており、イグレシアスもシンシナティ・レッズと契約間近と伝えられている。

キューバ政府は2013年9月に、スポーツ選手が国外のプロリーグと契約することを認めると発表した。これに先駆け、アルフレド・デスパイネら3選手は、政府の許可を受けてメキシカン・リーグでプレーし、2014年4月にはフレデリク・セペダが読売ジャイアンツ、5月にはユリエスキ・グリエルが横浜DeNAベイスターズと契約した。デスパイネ、セペダ、グリエルの3人も、2013年のWBCに出場している。

アブレイユの亡命は2013年8月だが、アルバレーナとイグレシアスの亡命は11月で、キューバ政府が新たな方針を発表した後だった。トマースの場合は、セペダとグリエルが日本プロ野球の球団と契約した後だ。

キューバの選手が国外でのプレーを希望しても、必ずしも政府から許可が下りるわけではないらしい。だが、2014年5月に日刊スポーツが報じた「阪神がキューバ選手の獲得調査を行うことが19日、分かった」という書き出しの記事には、「現在、キューバ政府が容認している移籍リストには、昨年の第3回WBC代表で活躍したトマス、ベル両外野手ら世界的に名前が知られた選手ばかりが挙がっている模様」と記してある。これが事実なら、トマース(=トマス)には、亡命してメジャーリーグをめざす以外にも、亡命せずにキューバとの商取引を禁じていない国でプレーする選択肢があったことになる。

今後、日本(や韓国、メキシコ)でプレーするキューバンは増えるかもしれない。それでも、トマースらのようにリスクを背負いながら亡命を企ててメジャーリーグへ向かう流れも、なくなりはしないだろう。

キューバでも、メジャーリーグはベースボールの最高峰と見做されている。MLB.comのジェシー・サンチェスによれば、グリエルは2014年2月に遠征先で「キューバで12年間プレーしてきた。今は海外でプレーしたい。どんなものなのか知りたいし、もっと進歩したい。いつも最高のベースボールを夢見てきた。メジャーリーグ、日本、他のどこであっても。合衆国ですごくプレーしたいし、許しが出ればプレーする」と語ったという。

また、メジャーリーグで活躍した時に――高く評価されていればプレーする前であっても――得られる報酬は、他のリーグと比べてずっと多い。年齢という要素もあるような気がする。亡命した2013年のWBCメンバーのうち、アブレイユは1987年生まれの27歳だが、アルバレーナ、イグレシアス、トマースの3人はいずれも1990年生まれで、まだ20代前半と若い。一方、読売に入団したセペダは1980年生まれの34歳。横浜DeNAのグリエルは1984年生まれで、6月9日に30歳の誕生日を迎えた。

近い将来においては、デスパイネの動向が注目される。メキシカン・リーグで2年目を過ごしていたデスパイネは、4月にドミニカ共和国の偽造パスポートを使用していたことが発覚し、リーグから永久追放処分を受けてキューバへ戻った。

このパスポートが亡命の意思なのかどうかはわからない。ベースボール・アメリカ誌のベン・バドラーは、メキシカン・リーグの球団はメジャーリーグ球団の傘下には入っていないものの、リーグ自体はメジャーリーグ傘下のマイナーリーグ組織に属しているため、キューバの選手とは契約しないように働きかけられ、それがドミニカ共和国のパスポートという形になったと見ている。

デスパイネがこれからも国外でプレーしたいと考えるなら、獲得に乗り出す球団は、メジャーリーグでも日本プロ野球でも少なくないだろう。ただ、デスパイネは1986年生まれの28歳で、約半年ながらアブレイユよりも年上だ。メジャーリーグで成功を収めたい、もしくは大金を稼ぎたい――あるいはその両方を望むのであれば、ヤシエル・プイーグ(ドジャース)やレオニス・マーティン(テキサス・レンジャーズ)が引っかかったようなたちの悪い仲介者には気をつけてほしいが、急いだ方がいい。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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