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今年の「冬季うつ」を乗り越える 2日間の「リセット」プラン #今つらいあなたへ

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:show999/イメージマート)

短かったお正月休み、疲れ取れず?

今年のお正月休みはあっという間に過ぎた気がするという声をききます。元日と2日が土日と重なったこともあって実際に休日数が少なく、年末ギリギリまで業務に追われていた方は、たまった疲れが抜けないまま仕事始めを迎えてしまったと感じているとみられます。

リセットしたという感覚がないまま疲れを引きずり、これから年度末まで慌ただしく業務を続けなければならないという方もいるでしょう。そうした方の冬季うつ防止対策を考えます。

「冬季うつ」対策には心身の「リセット」

冬場は気持ちが落ち込みがちになり、冬季うつと呼ばれる「季節性感情障害」が起こりやすいとされています。冬季うつの症状は、気分の落ち込みの他、過眠や炭水化物の過食が起こりやすくなるなどが特徴ですが、その原因は、はっきりとはしていません。ただ、幸せホルモンと呼ばれる神経伝達物質のセロトニンが減少することと関係があり、概日リズム(体内時計)をつかさどるメラトニンという松果体のホルモンの分泌が変化することとも関わりがあるとされています。

さらに長引くコロナ禍で、戸外で陽にあたる習慣が減少したことにも注意が必要です。

「忙しいのは仕方がない」とあきらめムードになってしまうと気分がさらに停滞します。心身の疲れを回復させ冬季うつを予防するためには、睡眠の質を改善して生活リズムをキープすることが早道です。

2日間でできる「リセット」プラン

週末や連休の時間を「予約」

「用事のあと時間が余ったらリセットする時間に充てる」という考え方はこの際捨てましょう。全く逆の視点で考えてください。

リセットする時間をまず先に確保することが必要です。次の週末の土曜日曜や、連休が取れればその2日間をリセットに充ててはいかがでしょう。用事を入れず、代わりに散歩したり、ジムに行ったり、自分をメンテナンスするための時間を先に確保してしまいます。この時間は身体を緩める、身体を動かすことを中心に行い交感神経の緊張状態を改善するのです。家族や友人との予定はそのあとで必要に応じて入れます。ご家族にもこうした時間の必要性を説明して理解してもらうことも大事です。時間は余らないものです。用事を優先してリセット時間を後回しにすると時間はとれないのです。

自分の身体をメンテナンスする時間を作るなんてわがままだ、といった考えは禁物です。「持続可能な働き方」をするためにリセット時間が必要です。

1日目「動かす、緩める」がキーワード

休日1日目に身体を緩める計画を立てます。散歩、ストレッチなどで身体の緊張をほぐしたり、自転車やジョギングなどで身体を動かしたりします。マッサージなどをしてもらうのもいいと思います。軽い疲労感や空腹を感じるくらいがベストです。運動している間は仕事を考えないで身体を動かすことに集中します。「動かす、緩める」がキーワードです。

昼間お天気が良ければ戸外の時間を作ることをおすすめします。太陽の光に含まれるバイオレットライトは網膜のOPN(オプシン)5という光受容体を活性化するのですが、OPN5は脳波を含めた脳機能に影響し、うつや神経系の治療に有効な可能性が示されているということです。さらに網膜にあるOPN4は昼に太陽の光を浴びると太陽のブルーライトにより活性化されてメラトニンの分泌を促し、概日リズムを整え夜の睡眠を促してくれるということです。

食事とお風呂も味方に

食事はタンパク質中心のメニューがおすすめです。炭水化物は控えめにして魚や鶏のささ身、油の少ない肉と野菜中心にして鍋料理などもいいでしょう。冬季うつは、炭水化物への依存傾向が強まり食べ出すと止まらない場合もあります。タンパク質中心の食事をしっかり取り満足感があると、甘いものへの依存リスクが減少するはずです。1日目は夕食を早めに取り、夜寝る前2時間はパソコン・スマホは見ないことに決めます。テレビも就寝前2時間はやめておきます。

入浴はシャワーだけではなく湯船につかり身体を緩めてください。好きな音楽を聴いてリラックスしたり、眼精疲労を改善するために目の周りの筋肉をほぐすように目の周囲を温めたりすることも効果的です。蒸しタオルのほか、市販の蒸気アイマスクもいいと思います。さらに交感神経を緩めるために鼻呼吸もおすすめです。

眠る前の鼻倍呼吸

鼻の倍呼吸についてはすでにご存じの方も多いと思いますが、息を吸う時間の倍の長さで息を吐く呼吸法です。この方法で呼吸すると交感神経の緊張を改善でき自律神経の調整になります。鼻呼吸は難しいという方には簡単にできる方法があります。まず左の鼻の上をおさえ、右の鼻から息を吸います。次に右の鼻の上をおさえ息を吸った時の倍の長さで左の鼻から息を吐きます。長さを心の中で数えながら少しずつ時間を伸ばしていくと次第に心拍数などがゆっくりとなりリラックスしていきます。

2日目、寝坊せずに朝日を浴びる

2日目は午前中に太陽にあたる時間を作るといいのですが、お天気が悪い場合は起きたらまず窓を開けてください。午前中に太陽にあたると14~16時間後に松果体からのメラトニン分泌が起きて眠りに入りやすくなるのです。2日目も1日目と同じように身体を緩めたり動かしたりすることで緊張をほぐしながら過ごします。2日目はふだんの勤務の日の起床時間より2時間以上寝坊をしないことが大事です。それ以上の寝坊は生活リズムの乱れが起きて夜の寝つきが悪くなるリスクを高めます。睡眠を十分とるというと寝坊をするというふうに捉える方がいますが、遅くまで寝ていることではないのです。

心地良い感覚を体で覚えておく

身体を動かす、緩める、陽にあたるなどわかっているのにできないということが多いのではないでしょうか? その理由の一つは、習慣化していないこともあると思います。普段から身体を動かしたり緩めたりする習慣がある方は、座りっぱなしで仕事をしていると肩こりなど不快感を強く感じてメンテナンスをするものですが、そうした習慣がない方は不快感に気がつかず、気がついてもそれを抑え込み緊張状態が継続していることがほとんどです。また身体を緩めたり、リラックスしたりする時間を作るのは「怠け」だと捉えるような心理的な要因もあると思われます。その結果、眠りの質が低下する状態が続いて体調不良の要因になることが多いといえます。一度リセット時間を作り身体の緊張を解放した時の心地良い感覚を身体で覚えておくということが必要です。

質のいい睡眠を確保できない理由は?

「リセット」のためには睡眠をしっかりとることが大前提です。とはいえ、なかなか寝つけない、業務が終わるのが遅い、などが原因で睡眠を確保しにくい方が多いのが現状です。寝つきが悪い、眠りが浅いという状態が継続するとうつ気分に陥りやすいといえます。逆に質がいい睡眠はうつ防止に大切です。寝つきが悪い方の多くは、寝る前ギリギリまでパソコンで業務をしたりスマホを見たりゲームをしたりしているものです。あるいは気になることを考えていたり不安なことを思い起こしたりして交感神経が緊張状態になっています。また座りっぱなしで身体の一部だけを酷使していたり、眼精疲労があったりするなどが共通しています。質のいい睡眠を確保するためには、こうした習慣をあらためるよう日頃から意識しましょう。

自問自答し必要に応じてSOSを

業務が忙しく仕事の依頼が立て込んでいるとリセット時間を確保することが難しいこともあるでしょう。そんな時は「この働き方で1年続けられるか」と自分に問いかけてください。それは無理だと思ったら、すぐに改善する方法を考えないと心身のリスクが高くなります。必要に応じて業務を手分けしてもらう手段を考える、職場の上司や産業医に相談する、家族や友人に状況を説明するなどして、これから年度末に向かう季節、冬のうつのリスク防止を心がけていただきたいと思います。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画です】

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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