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コロナ禍2年目の「5月病」リスクに注意 GW明けに知っておきたい予防対策

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
(写真:single_one/イメージマート)

毎年この季節に懸念されるのが5月病です。5月病という病名は医学的には存在せず、環境に適応できずに起きる「適応障害」がその正体です。4月の進学や就職、職場の異動、転居などでこれまでと異なる環境に適応できず、ゴールデンウィークでお休みが続いた後に体調を崩したり心の活気が低下したりといった症状が起きます。新型コロナ禍2年目で働き方の変化や自粛呼びかけが続いている今年は、こうした5月病のリスクがこれまでとはかなり違う形で広く現れるのではないかと心配しています。その理由と予防対策を考えます。

新入社員と2年目社員の5月病リスク

私は産業医をしていますが、昨年のこの季節は新入社員が適応障害で休職したり退職したりしたケースをかなりの頻度で経験しました。今年4月は入社2年目になった社員がうつ状態や体調不良を訴え面談することが頻繁でした。昨年入社して仕事にまだ十分慣れず、不安が残った状態で2年目に入り責任が増えたことと、業務について教わったり相談したりできる相手が定まらないことで疲労感が限界状態だったといえます。こうした2年目社員が連休で長期休んだことで生活リズムが崩れ5月病を起こすことが懸念されます。さらに今年の新入社員がリモート業務の多い仕事環境に適応できるか、という懸念も起こります。コロナ以前入社組とコロナ後の入社組では業務に対する自己肯定感や社内の人たちとのコミュニケーションが異なります。その点を考慮して新入社員と2年目社員の適応障害を予防する対策が必要だと思われます。

中間管理職の5月病リスク

中間管理職のメンタルヘルスにも心配があります。昨年以来、収益を守るために人件費をカットする経営陣と現場との間の溝でかなりの心理的負担がかかっているケースがみられます。契約社員の継続をカットして正社員だけで業務を行おうとするために正社員の業務量が増え、過剰適応状態に陥り体調を崩すというケースも見られます。体調を崩す正社員の多くは、業務負荷の増加に関して何かものを言って悪く思われるとリストラ要員になるのではという不安から過重な業務量も無理してこなそうとして過剰適応状態を起こしていることがあります。緊急事態宣言の発出で時間外労働を制限している企業もあり、時間内に多くの業務をこなさなければならないという心理的なプレッシャーを感じている方も多く見られます。こうした過剰適応状態を抱えたまま連休に入り、ほっと息をつき生活のリズムが乱れた方たちの連休明けの体調不安が懸念されるところです。

非正規雇用・フリーランス・自営業の5月病リスク

非正規雇用やフリーランスの仕事をしている方は雇用状況が不安定になり自宅待機の日も増えて不安感を抱えた中で連休明けを迎えます。昨年は給付金もあり少しは心のゆとりがあったものの、今年はそうした支援もなく、連休中も自粛で帰省できず、遠出もできずストレスを改善できないという声を聞きました。

自営業者も同様で連休で経営を挽回しようとしていた方の失望感は大きく、従業員の人たちへの給料の保証と先行き不安が続きすでに体調の悪化を感じているという方や家族が心配という相談を受けることが多くなりました。

大学生の5月病リスク

今年の新入生と大学2年生は特に注意が必要でしょう。昨年入学したものの、1年間オンライン授業で友達作りができず不満感を抱えた2年生は、今年度は対面授業が開始したと思った直後の緊急事態宣言で再びオンライン授業に逆戻りという二転三転する環境変化に翻弄され、自粛を呼びかけられた状態で連休に入りました。帰省できない学生は、孤独感の中で過ごし、依然としてリモート講義が続くのか、という先の見えない状況で適応障害に陥る危険が懸念されます。

こうしたことから企業の正社員だけでなく非正規雇用やフリーランスの方などあらゆる雇用形態で、また新入社員だけでなく中堅社員も含めて、昨年からの過剰適応でがんばってきた方たちの燃え尽きによる5月病の増加が非常に心配です。加えて雇用が安定しリモートワークが可能な企業に勤務する人とエッセンシャルワーカーとの勤務形態の格差による不満感でうっぷんがたまっている方も多く、社会全体のゆとりがなくなっており、お互いの違いを受け入れにくい傾向が高まっています。SNSなどで攻撃的な意見が飛び交うようなこともストレスを高めていきそうな気配があります。

5月病を予防する対策

5月病を防ぐためには、まず異変に気付くこと、セルフケア、そして周囲のサポートが大事です。予防対策のファーストステップとして、まず次のようなサインに気付くことです。

5月病のサイン

  • 睡眠の変化:朝早く目が覚める・夢ばかり見て熟睡感がない・夜中に何度も目が覚る・寝つきが悪い・朝おきられないなど
  • 食欲の変化:食べてもおいしくない・食欲低下・過食
  • 体調の変化:倦怠(けんたい)感・頭痛・肩こり・吐き気・胃腸障害・下痢が続く・めまいなど
  • 気分の変化:やる気が出ない・おっくう・憂うつ・怒りっぽい・いらいらする
  • 行動の変化:仕事がのろくなる・物事が決められない・掃除や片付けができない

2週間ほどこうしたサインが続いた場合は医療機関につなぐことが大事です。

次にセルフケアの具体的な方法をご紹介します。

1.身体を動かす機会を作る

散歩やストレッチなど時間を決めて身体を動かす習慣をつけることは5月病対策として有効です。身体を動かし緩めることにより気持ちが解放されます。仕事の合間でも定期的に身体をリラックスする時間を作るようにすることも大事です。

2.太陽の光を浴びる

朝、太陽の光を浴びると14時間から16時間後に睡眠を誘導するホルモンのメラトニンが分泌されます。睡眠のリズムは生活リズムを整える上で非常に重要です。朝の起床時間を一定にして少し眠くても起床して窓を開け光を浴びる習慣をつけると有効です。

また昼間は太陽の光の中のバイオレットライトを利用しましょう。バイオレットライトは、最近の研究で目の疲労を防ぐだけではなく、うつの予防にも効果があるのではないかとされています。ガラスでは遮断されてしまうバイオレットライトですから、昼間こまめに外に出て人混みではない場所で過ごす時間を作ることも対策として必要です。

3.生活リズムの見直しをする

朝の起床時間、就寝時間、食事時間などをできるだけ一定にして休日でも2時間以上の時差が生まれないように整えておくと、生活リズムはキープしやすいといえます。生活リズムを整え自律神経の乱れを防ぐことが大事です。食事時間を一定にしておくと胃腸の働きを保ち自律神経の乱れを防ぐことができます。巣ごもり生活でついだらだら食べてしまうという方もいますが、これは避けた方がいいといえます。

4.周囲とのコミュニケーションを大事にする

何か変だな、と自分で感じたときは周囲にSOSを出すことをためらわないでください。趣味が同じ友達とのオンラインで話し合える時間を定期的に作ることなども、孤独感を軽くし適応障害を予防することに役立つはずです。

また周りの人が気付くサインとサポートを考えます。

周囲が気付く5月病のサイン

  • 怒りっぽくなった
  • 口数が少なくなった
  • 身だしなみに気を使わなくなった
  • 遅刻が多い
  • 失敗が多い
  • 忘れ物が増えた
  • 食事の量が減った
  • 顔に表情がない
  • デスク回りが散らかっている
  • 遅刻が多い・時間に遅れる

サインに周囲の方が気付いたら、まず声がけをしていただきたいと思います。そして必要な支援につなぐことが大事です。

「最近疲れてない?」「体調はどう?」といった言葉をかけ、SOSのサインを出せる場があることを伝えてください。企業内ではリモートの会議に遅れたり、報告書が提出されていなかったりすることがサインになります。家庭では、怒りっぽくなったり、朝起きてこなかったりなどがサインになるでしょう。

以上を参考に、5月病のリスクを乗り切っていただきたいと思います。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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