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「春のうつ」を乗り切る3つの対策 気圧や環境の変化に要注意

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:アフロ)

暖かくなって日も長くなり、気分も明るくなるはずの春なのに「なんだか憂うつ」いう声を聞くことが多いこの頃です。病気ではないはずだけれど気分が晴れない、やる気がない、眠くてだるいなどという悩みはないでしょうか。春のうつに注意してください。その対策を考えましょう。

心弾む季節のはずなのになぜ

原因1.自律神経が要因の春のうつ

温度変化の多い毎日ですが、その中で体温を一定に保つのは自律神経の働きによるものです。気がつかないうちに自律神経の疲労がたまっていることがあります。

また最近は気圧の変化で体調が悪くなる「気象病」という症状も報告されています。これは気圧の変化により頭痛やめまい、肩こりなどの身体の不調や、イライラ感や憂うつ感などの気分の変化が起きるものです。気圧の変化を感じるのは耳の中の内耳という器官で、この情報を脳に送り自律神経が活性化します。敏感な方では、気圧の変化に過剰に反応するため自律神経のバランスが崩れてさまざまな症状を引き起こしやすいといえます。

原因2.環境変化による適応の問題と家庭内の感情の広がり

春は進学や転居、部署異動などの変化の季節でもあります。また大学生ではこれまで習っていた教授の退官があったりして新しい環境になる場合もあります。また自分ではなくても親しい友達や家族などが進学したり部署異動になることもあるでしょう。最近の研究でひとの感情は特に親しい人の場合では感情の伝播があるといわれています。

家族内の感情の広がりについてニコラス・A・クリスタキス博士の報告によると、娘の感情の両親への影響が最も強く、また父親の感情は妻と息子に影響するが娘にはさほど影響しないということです。特に父親が仕事から帰った時の感情状態は影響が大きいのだということです。つまり家族の中で父親が仕事環境の変化などで機嫌が悪いと妻や息子の気分も悪くなるのです。これは要注意ですね。自分の感情状態が周りに影響を与えているという自覚が必要です。

原因3.コロナ禍の先行き不安による葛藤状態

緊急事態宣言が解除になったものの、宮城や大阪で危機感が拡がり都内でも感染者が増えています。第4波が気がかりではあるけれど、人とは会いたいし食事にも行きたいという葛藤状態がストレス要因となっていることは否定できません。心の中でアクセルとブレーキを同時に踏んでいる状態は心の活気を低下させます。

対策1:自律神経の過労を修正する

自律神経の調整をするには質のいい睡眠が大事です。これから1週間の朝起きる時間を決めておきませんか。生活リズムを整え睡眠のリズムを作るにはまず朝から始めることが大事です。というのは朝起きて陽の光を浴びるとそれから14~16 時間後に睡眠を誘導するメラトニンというホルモンが脳の松果体から分泌されます。ですから起床時間が遅れると生活リズムが後退してしまい寝付くのが遅くなります。午後10時から午前2時くらいまでの成長ホルモンが最も分泌される時間を逃してしまうのも残念です。成長ホルモンは大人の場合、傷の修復やアンチエイジングの鍵を握るといわれていますから、この時間を逃さずに寝付いてほしいものです。

対策2:太陽の光のバイオレットライトに注目する

 朝に窓を開けて陽の光を浴びると1日を快適な気分で過ごしやすいという研究報告があります。また室内で業務する場合も窓のそばで過ごすことが気分を保つのに大事とされていますから、パソコンの画面が光らないよう工夫しながら窓のそばで過ごしてはいかがでしょう。最近の研究では慶応義塾大学眼科学教授を経て現在慶応義塾大学のベンチャー企業坪田ラボのCEO坪田一男先生のグループが、太陽光に含まれるバイオレットライトが近視予防に効果があり、また気分をうつ状態から守るために重要な働きをするという報告をしています。このバイオレットライトはガラスで遮断されてしまうため、窓を開けて陽を浴びることが大事ということです。坪田先生は1日2時間ほど戸外で過ごすと近視やうつ気分予防に効果があると報告していますが、そんなに時間がないという方は細切れでもいいからちょくちょく外に出て太陽の光のバイオレットライトを浴びる習慣を取り入れてはいかがでしょう。

対策3:気分を保つための自分なりの処方箋を作る

環境の変化に適応し自律神経のバランスを保つための自分なりの処方箋を作ってはいかがでしょう。ちなみに私の処方箋をご紹介します。

  • 朝はまず起きたら窓を開けて空を見る
  • 深呼吸タイムを1日数回作る。吸う息を吐く息の倍の時間で吐く鼻呼吸で、副交感神経を優位にしてリラックスする
  • 朝食は必ず食べる
  • 時々花を買い部屋に飾る
  • 香りを利用してリラックス(花の香り、珈琲の香りなど)
  • ダンベル1キロを使った軽い筋トレを10分程度する
  • リモート作業を続けたら2時間に1回は身体を伸ばしストレッチする
  • YouTubeに合わせて発声練習などをする
  • 食料品などを買いに出る。散歩のつもりでこまめに戸外に出る
  • 夕方は身体を動かす時間を作る
  • 就寝前に目の周囲を蒸しタオルで温め、目の周りの筋肉をリラックスさせる

身体を動かすことと陽の光を浴びることと、呼吸により自律神経のバランスをとること。この3つの大きな柱により生活リズムを整えることが春のうつを乗り切るのに大事だと思います。ご自分にあった方法を取り入れて乗り切ってください。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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