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人はなぜ依存症になるのかーー 芸能人の相次ぐ薬物逮捕に考える

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

女優の沢尻エリカさんが合成麻薬MDMAを所持したとして逮捕されたという報道で衝撃が走った。最近有名タレントの薬物使用による事件が相次いでいるが、なぜ人生を破壊するような自己破壊行動に人は走るのか、という疑問を感じる方が多いと思う。そこでこの事件をきっかけにして依存症について考えてみたいと思う。

物質への依存と行動への依存

アディクション「依存症」には、物質に対する依存と、行動に対する依存がある。

物質(薬物)に対する依存は、中枢神経を刺激するリタリン、コカイン、アンフェタミン、覚せい剤、などがあり、中枢神経を抑制するものとしてアルコール、バルビツール系睡眠薬、その他、モルヒネ、ヘロイン、ニコチン、マリファナ、他のストリートドラッグがある。

行動に対する依存としては、ギャンブル、ダイエット、過食、セックス、買い物、フィットネスなどがある。

依存の根底にある心理とは

物質や行動など依存する対象が異なるので別物のように見えるが、その根底にある共通した心理は、心理的苦痛からの「逃避」である。人が薬物などの物質に依存するのは、それが心理的苦痛を和らげたり変化させたり忘れさせてくれる効果が強いからである。

心理的苦痛を和らげる物質については個人差があり、自分に合った薬理作用を持つ物質を試行錯誤しながら探し出し、それを見つけて引きずり込まれるというプロセスであることが多い。

気持ちが落ち込みがちで気力がわかない、疲労感を感じる人は、中枢神経刺激作用を持つコカインや覚せい剤で空虚感を埋めようとする。不安感があり感情を抑圧する傾向がある人は、アルコールにより不安感を軽減してリラックスした気分を求めるようになる。アルコールは中枢神経抑制作用があるからだ。マリファナは脳内の受容体に作用して不安や恐怖を調整すると推測されている。

人生を支配され、生活破たんへ

自分の感情をうまく表現したり受け入れたりできない、人間関係でストレスがあり葛藤状況にある、感情的な苦痛がありそのことについて手助けを求められないなどの状況が、依存へのリスクを高くするといわれている。

いずれにせよ依存症の根底にあるのは「心理的苦痛」である。人がその薬物を使用した背景にはその薬物を使えば少しの間でも苦痛に耐えられる、その薬物がなければ到底耐えられない、と感じた内的な困難があったということである。

依存は心理的苦痛から逃避するために使われるのだが、それに依存することでそれなしでは暮らせなくなる。それが人生を支配しそれなしには生きられなくなり社会生活や人間関係の破たんをきたす。結果、今度は依存したものを断ち切ろうとすることで人生を費やすことになる。

抱え込まず、トリガーを知る

依存に陥らないために必要なことは大きく2つある。第1に自分の心理的苦痛について抱え込まないこと、それを表現する手段や表現する場、信頼できて相談できる専門家をみつけることである。第2にトリガーは何かについて気がつくことだ。怒り、不安、自己肯定感の低下、孤独、失敗、他者との比較、退屈、空虚、などどのような時にその薬物に手を出すのか、依存する物質に向かわせる環境や条件について知り、その場合薬物に頼らずに乗り切る対処方法を信頼できる専門家と話し合うことである。

「抱え込まない」ことが大事なのだが、相談することや弱みを見せることに抵抗がある人が多いのが問題だ。沢尻容疑者の逮捕を他人事としてとらえず、アルコールやたばこも含め、依存を人ごと、と思わず自分の生活を点検していただきたいと思う。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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