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大人の不安は子どもに影響:衝撃ニュースから心を守る基礎知識

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:アフロ)

さいたま市で小学4年の男児が殺害された事件で、子どもたちへの影響が心配されています。同級生や同じ学校の児童だけでなく、報道に接した子どもたちが受けたショックを心配する声も聞かれます。子どもたちの心を守るために、大人の皆さんに知っていただきたい基礎知識をまとめてみました。

1. 親の不安は子どもに影響する

気をつけてほしいのは、過剰反応により不安を引き起こさないでほしいということです。心のケア対策として学校に臨床心理士が派遣されるのは、迅速な対応として重要だと思います。ただ保護者や周囲が過剰に反応し子どもたちに心の傷を残すのではないかと心配して不安になることで、逆に子供の不安を増加させてしまうことがあるので注意してほしいものです。親や周囲の不安感は子どもに影響します。まずは親が心を安定させることが必要です。

2. 子どもの変化を捉えておく

衝撃的な出来事が起こってから1か月以内に起きる急性ストレス障害の症状について知り、子どもの状態を捉えてほしいと思います。急性ストレス障害では音などに敏感になったり興奮状態になったり逆に反応が鈍くなったりという症状が起きることがあります。

子どもの場合は、悪夢を見てうなされる、赤ちゃん返りして指をしゃぶったり爪を噛んだり甘える、などの症状も起きるので周りの方が驚くことがあります。これまでできていたことができない、例えばトイレにひとりで行けない、暗いところを怖がる、などの症状が起きたり、体の症状として下痢や頭痛を訴えることや引きこもりがちになることもあります。

このことですぐ子どもに心の傷が残ると不安になりあわてないでください。急性ストレス障害のすべてがPTSDになるわけではありません。ただこうした変化は臨床心理士や医師に伝えて経過を観察してください。多くは1か月ほどで改善していきます。変化を捉え子どもを安心させてあげることが大事です。一緒に過ごす時間を増やし安心させてください。

3. レジリエンス(回復力)を高める

ストレスによる交感神経緊張状態を改善することが大事ですが、心の回復力は自然の中など深呼吸ができる環境の中でゆったり過ごすことが大切です。子どもは怖い、悲しい、という感情を言葉で表現することができにくいものです。こうした感情を言葉で表現する代わりに身体をのびのびさせて遊ぶ、走る、歌う、などが大事です。好きな動物とのふれあいなどもよいと思います。こうしてリラックスできる環境を作ることで子どもたちの心の回復力は高まります。

4. 過剰な報道に注意

事件を目撃するなど直接関係していなくても、報道を見たり聞いたりして心に影響を残すことがあることは、これまで何度も報告されています。必要な報道は大事ですが、事件を伝えることに不要と思われる過剰な報道についてメディアに考えていただきたいと思うことがしばしばあります。今回の事件ではこれまでのところそうした報道は見られていないのですが、今後もそうした配慮を続けていきたいものです。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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