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身近な人の様子が変…メンタル不調のサインを感じたときどうする?

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
写真はイメージです。(写真:アフロ)

身近な人の様子が変だと感じたときどうすればいいのだろうという相談を受けることがよくあります。家族や友人、職場の同僚の様子がいつもと違って心配というときどう行動すればいいのでしょう。先日も、メールの文面や電話の声がおかしくなっていった先輩がうつ状態ではないかと心配になりサポートをしたというSNSの投稿が話題になっていました。夏の疲れが心身の不調として表れやすいこの時季、メンタル不調のサインとその対処法についてご紹介します。

心の活気の低下を示す三つのサイン

心の活気が低下したときのサインはさまざまですが、大きく三つの種類があります。気分のサイン、行動や生活リズムのサイン、そして身体的サインです。

気分のサインとは、やる気が出ない、おっくう、何事も面倒に感じる、憂鬱(ゆううつ)、楽しいことがない、自分が生きていても仕方ない、というような感情です。ですから周りから見ていてなんとなくだるそう、面倒そう、仕事を頼みにくい感じがするというものです。またいつもよりイライラしたり怒りっぽくなったりする人もいます。誰でもこうした気分になることがあるものですが、気分が落ち込み何をしても気分が変わらないまま2週間続くときは、うつ病の可能性が高いのです。

行動のサインとは、たとえば朝起きられなくなり遅刻が多い、無断欠勤、服装やメイクがきちんとしていない、仕事でミスが多い、仕事がのろい、決められない、家事ができないなどです。職場で最も気がつきやすいのはこうした行動のサインでしょう。デスクでぼんやりして集中していない様子から変だなと気がつくこともあると思います。ランチに行ってもあまり話をしない、表情がないなど何か違和感を感じるのが行動のサインです。

身体的サインとは、睡眠の質が低下して夢を見やすい、朝早く目が覚めて眠れない、あるいは逆に眠くてたまらない、食欲が低下する、過食になる、ほか発熱、体の痛み、胃腸障害などさまざまな症状が出ることがあります。

まず声がけしメッセージをおくる

身近な人にこうした異変を感じたら、まず声がけをしてみるのがいいと思います。その際“上から目線”ではないようにすることが必要です。いきなり「何か変だから病院に行くように」などと言われても受け入れられないでしょう。例えば

  • 自分は最近忙しいけどそちらはどう? 疲れていない?
  • 暑かったり涼しくなったりで疲れるよね。体調どうですか?

というように共通のテーマをもとに声がけをして話し合うきっかけを作り、必要なときは手伝いますよというメッセージを伝えます。また職場などではお昼に一緒に行こう、あるいは仕事終了後にちょっとお茶を飲もうなどと誘って話をする機会を作ることもいいと思います。

人に助けを求めることに心理的な抵抗も

人に自分の弱みを見せたくない、という気持ちが誰しもあるものです。ですから気持ちが落ち込むという話は自分からなかなか切り出せないことが多いのです。そんなとき周りからちょっとした声がけをされることで、声をあげるきっかけになることがあります。特に仕事上の役割に縛られている場合、つまり「頑張り屋」「弱音を吐かずにやり抜く人」などというイメージで仕事をしてきた方は自分から「つらい」とは言えず自分をさらに追い込んでしまうことがしばしばです。

家庭の中でも身近な人ほど弱音を吐けないという傾向がある場合が気になります。身近な人ほど心配をかけたくない、という思いで家でも元気なふりをしてしまい周りが気がつかないこともあります。医師の前でも元気なふりをして「大丈夫」という方もいるくらいです。診断用の書類をチェックすると心の活気が完全に低下しているにもかかわらず顔はニコニコして一見元気、という方もいらっしゃいます。元気で頑張らないといけない、という気持ちがさらにその方を追い込んでいるのです。

体調の問題をきっかけに受診につなげる

身体の不調はすぐに受診して検査をしようとなさいますが、心の不調での受診はハードルが高いのが現状です。ですからまずは体調をきっかけに受診をしていただくのが円滑にサポートに結びつくかなと思います。心の活気が低下している場合、ほとんどの場合「だるさ」「おっくう」などの倦怠感が現れます。ですからだるさやおっくう感の要因を調べるためにかかりつけ医などを受診したら、と声がけし治療や支援につなげることができます。

ストレスなどが要因になり身体症状が出る場合は心療内科を受診する、中には耳鳴りや耳閉感で耳鼻科を受診しそこから心療内科へ紹介されるという場合もあります。胃腸障害や食欲低下も同様で、消化器科から心療内科や精神科を紹介されて休養や治療を開始することもしばしばです。

言葉のサインは冗談ではなく赤信号

「もう生きているのが疲れた」「自分がいないほうが周りは幸せ」「死にたい」などという言葉を聞いたら赤信号ととらえてください。「死にたいという人は死なない」というのは誤りです。冗談のように話すこともありますが、決して冗談ではないことが多いのです。こういう言葉を聞いたとき、聞かなかったふりをして無視したり話を逸らしたり、「そういうことを言わないでほしい」と拒否せずに、そう思うのは心のエネルギーがなくなっているからだ、と伝え受診につなげてください。

「死にたい」と打ち明ける場合、打ち明ける相手を信頼していることに気がついて支援につなげてほしいと思います。その際の注意を次にお伝えします。

身近な人の不調を一人で抱え込まない

身近な方の不調に気がついたとき、自分一人で何とかしようと頑張るのはリスクがあります。特に自傷行為の危険があるときなどはまず信頼できる仲間でチームを組んで声がけをし、すぐに精神保健の専門家につなぐことが大事です。

抱え込むのではなく「支援につなぐ」ということを念頭になさってください。

またご家族が心の不調の場合、その方を周りで支える方にとってもストレスになります。病気の相手に自分のつらさを話すことができなくなり自分が疲れることが多いのです。ご自分を支えてくれる医師や専門のスタッフを持つことも忘れないでいただきたいと思います。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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