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「大阪都構想」3度目の住民投票はあるのか?ー10年の総括&課題の整理(その①)

上山信一慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授
写真:大阪城周辺。出典:筆者蔵

 12月28日、大阪府市合同の副首都推進会議が開催された。筆者も出席し、そこでは大阪府と大阪市の広域行政のうち経済成長や街づくりを一元化する条例の必要性が議論された。大阪都構想(以下「都構想」)は11月1日に住民投票でいったん否決された。だが上記の条例は都構想の一部の代替手段であり、都構想2.0への再稼働とみる向きもあるようだ。条例案の今後はともかく、もとの都構想が世に出されたのは2010年である。2度目の否決、そして10年目を迎える現時点において、いったんの総括と今後の展望を述べたいと思う。

〇お詫びと回顧

 都構想の原案に近い思い付きは昔から大阪人の間では流布していた。だが長年の間、着想、願望の域を越えなかった。だが具体化の萌芽は07年に見え始めていた。筆者は当時、大阪市役所の市政改革推進会議の委員長として改革に関わっていた。たまたま浅田均氏(当時府議、現参議院議員)と歓談する機会があって素案をお聞きし即座に賛同した記憶がある。当時の大阪市は伏魔殿とも不祥事の巣窟とも言われていた。「このままでは到底、改革できない。どうしよう」と思っていた矢先だった。「なるほど都構想か。大阪市役所は大阪府庁を巻き込んだ外科手術で蘇生できる!」と確信した。

 浅田議員らが本気でその実現を考え始めたのは橋下氏が知事に就任した08年以降、とりわけ10年に維新を旗揚げしたのちだった。当初の主なメンバーは浅田均氏(現参議院議員)、橋下徹氏、松井一郎氏、東徹氏(現参議院議員)らだった。私も08年に橋下氏が知事に就任した後、大阪府の特別顧問として大都市制度の見直しに関わった。10年には著書『大阪維新』を出し都構想の詳細とその必要性を訴えた。

 やがて12年、「大都市地域における特別区の設置に関する法律(大都市法)」が成立し都構想の主戦場は府市の議会に移る。私はむしろ大阪市役所の改革や地下鉄・バスの民営化、府立と市立の大学統合などを分担するようになった。だが都構想は最重要政策課題である。知事市長への助言と府市統合本部会議や副首都推進会議での発言はずっと続けてきた。

 しかし、結果として都構想は10年の歳月と二度の住民投票を経ても成立させることができなかった。一方で維新への支持率は70%近くと高い。おそらく「維新の改革は支持するが大阪市役所の廃止は不安」「コロナ禍の中の制度変更は不安」という住民心理が僅差での否決につながったと思われる。だが否決は否決、負けは負けだ。責任の一端は私の力不足にもある。賛成いただいた方々にはひたすらお詫びを申し上げたい。

〇残された課題は多い

 だが二回とも僅差の否決であり、半数近くの方は賛成された。なぜなら過去には目に余る府市の対立、二重行政の無駄、二元行政による停滞があった。さらに巨大で制度疲労に陥る政令市の大阪市役所の問題は消えていない。今の松井・吉村体制のようにたまたま維新の首長が市長と知事を務めるうちは何とか凌げるかもしれない。だが政治情勢が変われば(今の愛知県と名古屋市のように)また府と市が対立して過去の停滞に逆戻りしかねない。それを防ぐにはどうすればいいのか。いち早く態勢を立て直し三度目の住民投票への挑戦をすべきか? それともほかの方法があるのか?4回にわたって総括をしてみたい。

〇11月1日を振り返る

 まずは記憶が薄れないうちに、住民投票についての率直な感想を8つのポイントにわけて解説したい

【1】維新の理想(都構想)が維新の10年の実績(二重行政の解消)に負けた

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慶應大学名誉教授、経営コンサルタント、大学院至善館特命教授

専門は戦略と改革。国交省(旧運輸省)、マッキンゼー(パートナー)を経て米ジョージタウン大学研究教授、慶應大学総合政策学部教授を歴任。アドバンテッジ・パートナーズ顧問のほかスターフライヤー、平和堂等の大手企業の社外取締役・監査役・顧問を兼務。東京都・大阪府市・愛知県の3都府県顧問を歴任。著書に『改革力』『大阪維新』等。京大法、米プリンストン大学院修士卒。これまでに世界119か国を旅した。オンラインサロン「街の未来、日本の未来」主宰 https://lounge.dmm.com/detail/1745/。1957年大阪市生まれ。

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