Yahoo!ニュース

話題を集めている慶應義塾高の長めの髪型。高校野球の「脱丸刈り」について考えてみた

上原伸一ノンフィクションライター
こうした高校球児のイラストも丸刈りではない時代が来るかもしれない(提供:イメージマート)

丸刈りにもいろいろな長さがある

これも多様性の1つの表れと言えようか。高校野球では近年、「丸刈り」が当たり前だった球児の髪型が、少しずつ変化しているようだ。現在行われている甲子園大会では、慶應義塾高校の「長めの髪」が話題を集めている。

日本高校野球連盟などが6月に発表した、加盟校(3818校)を対象にした実態調査によると、2018年の前回調査では、(部員の頭髪の取り決めが)丸刈りと答えた学校が76・8%を占めたが、今回は26.4%に減ったという。

ただ、取材を通した肌感からすると(今年はこれまで、東京、神奈川、千葉、埼玉を中心に、35校ほど取材)、「脱丸刈り」はまだまだ途上で、少数派のようにも映る。

ひと口に丸刈りと言っても、長さは様々だ。1厘(約0.3ミリ)、5厘(約1.5ミリ)、1分(約3ミリ)、3分(約6ミリ)、5分(約9ミリ)など、丸刈りにはいろいろな種類がある。

「厘」の長さの青々とした丸刈りにしているチームもある。希少派ではあるが、大会前、あるいは大切な試合の前に「気合」や「覚悟」といった内面を示すため、頭を剃り上げているところも見られる(大学野球でも)。

一方、5分刈りになると、「丸刈り」であるのは確かだが、「前髪がないスポーツ刈り」のような見た目になり、同じ丸刈りでもずいぶん印象が異なる。

かつては、下級生は何ミリと決められている大学、高校もあった。丸刈りの長さが上下関係の序列を示すものになっていたのだ。

ところで、「脱丸刈り」にはどんなメリットがあるのか。2年前に(校則に違反していなければ)髪型は自由としたある私学強豪の監督はこう話していた。

「世の中の流れもあってそうしたのですが、(野球一筋の)部員は毎月、髪を切りに行くことが、気分転換になっているようです。それと、理髪店などで、大人と会話することで、社会との接点が持てます。日頃は学校の先生か、指導者としか接していませんからね」

もっとも、髪型を自由にすれば、金銭的な負担がかかる。保護者からは「バリカンで刈ったほうが助かる」という本音も聞こえてくる。

自らの意志で丸刈りを選択する選手も

髪型が自由になっても、あるいはもともと自由でも、丸刈りを選択する球児はいる。話を聞くと「頭を洗うのが楽」というのも理由の1つだが、丸刈りにすると「高校野球をしている感じがする」ようだ。

このように自らの意志(あるいは好み)で丸刈りにしている球児もいれば、「丸刈りになるのなら野球はしない」という“丸刈り拒否派”もいる(入ろうとした学童野球チームが丸刈りで、それが嫌でサッカーを始めた子も)。

前述の調査によると、7割以上の学校が「脱丸刈り」を実施しているようだが、まだまだ「高校野球は丸刈り」の考え方も根強い。疑問を持つことなく、「そういうものだから」と丸刈りにしているチームも多い印象を受ける。

筆者が初めて見た「長髪」の甲子園球児は、1977年夏の優勝投手である、東洋大姫路高の松本正志氏(元阪急)だ。帽子を脱ぐと、スポーツ刈り以上に長い前髪が見え、驚いた記憶がある。90年代では、半ばくらいに当時監督だった竹田千秋氏(現・國學院大學総監督)の意向で、仙台育英高は髪が長かった(現在は丸刈り)。

かつての「当たり前」「常識」が見直されている時代である。「脱丸刈り」があっていい。反面、「丸刈り」があってもいいと思う。もちろん、チームの方針もあるが、どちらでも自由に選択できるようになれば…そう願っている。

ノンフィクションライター

Shinichi Uehara/1962年東京生まれ。外資系スポーツメーカーに8年間在籍後、PR代理店を経て、2001年からフリーランスのライターになる。これまで活動のメインとする野球では、アマチュア野球のカテゴリーを幅広く取材。現在はベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」、「大学野球」、「高校野球マガジン」などの専門誌の他、Webメディアでは朝日新聞「4years.」、「NumberWeb」、「スポーツナビ」、「現代ビジネス」などに寄稿している。

上原伸一の最近の記事